中国にらみ日比の戦略的関係強化を


 安倍晋三首相は、国賓として来日したフィリピンのアキノ大統領と会談し、中国が一方的に岩礁埋め立てを進める南シナ海情勢を踏まえ、防衛協力の強化で合意した。会談後発表した共同宣言では、中国の行動に「深刻な懸念を共有する」との立場を表明した。

 両国には南シナ海と東シナ海で海洋権益拡大に突き進む中国への危機感がある。戦略的関係を強化すべきだ。

「深刻な懸念を共有」

 防衛協力強化は、防衛装備品移転協定の交渉開始を柱とするものだ。フィリピンの南シナ海での警戒監視能力を高めるため、レーダー技術や海上自衛隊のP3C哨戒機などの移転を想定している。

 フィリピンは南シナ海で人工島造成を進める中国と対立し、日本も中国との間で沖縄県・尖閣諸島問題を抱えている。米国とも協力して海と空の警戒監視態勢を築き、中国ににらみを利かせる必要がある。

 会談後の共同記者会見で、安倍首相は中国への名指しは避けつつ南シナ海の埋め立てに言及し、「いかなる一方的な現状変更の試みにも反対することを改めて確認した」と説明。アキノ大統領も「国際社会を構成する国々に対し責任ある行動を取るよう呼び掛ける」と応じた。

 中国は南シナ海の地図上に「九段線」という境界線を引いて多くの海域を自国のものだと主張し、フィリピンやベトナムなど領有権を争う周辺国との緊張を高めている。人工島では港湾や滑走路の建設が急速に進められており、中国軍幹部は軍事目的と明言した。アキノ大統領は東京都内での講演で、こうした中国の海洋進出を「ナチスドイツを思い起こさせる」と厳しく批判した。

 南シナ海は重要なシーレーン(海上交通路)であり、東アジア向けの石油タンカーなどが航行している。中国が軍事力を強化すれば「航行の自由」が脅かされ、日本にとっても深刻な事態となる。

 アキノ大統領は国会での演説で、安倍政権が進める安全保障法制の整備に関して「審議に最大限の関心と強い尊敬の念を寄せて注目している」と述べ、日本が平和維持のために積極的に責任を果たしていくことに期待を示した。地域の安定に一層貢献するためにも、安保関連法案を今国会で着実に成立させねばならない。

 一方、共同宣言には両国が「過去の問題を乗り越え、強固な友好関係を構築」したとの認識が盛り込まれ、和解の歴史を強調した。

 フィリピンは第2次世界大戦で約110万人が犠牲になったと言われる。日本は戦後、総額約3兆円の政府開発援助(ODA)をフィリピンに供与してきた。アキノ大統領は宮中晩餐会で「過去に経験した痛みや悲劇は、相互尊重、尊厳、連帯に根差した関係構築に努めるという貴国の約束によって癒やされてきた」と述べた。

和解の歴史発信したい

 戦後70年の今年、中国や韓国は歴史認識問題で対日批判を強めている。日本はフィリピンとの和解の歴史を国際社会に発信していきたい。

(6月6日付社説)