伊方原発合格、再稼働にこぎ着ける努力を


 原子力規制委員会は四国電力の伊方原子力発電所3号機(愛媛県)の再稼働に向けた事実上の合格証に当たる「審査書案」を了承した。再稼働には地元の同意のほか、規制委の使用前検査を受けることなどが必要だが、目標とする今冬の再稼働に何とかこぎ着けてほしい。

燃料費増加3・7兆円

 再稼働の前提である新規制基準で「合格証」が出たのは、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)に続き3例目となる。

 四電は2013年7月、想定する地震の揺れ(基準地震動)を570ガル、津波の最大高さを約4・1㍍として審査を申請した。しかし、審査の中で規制委側は、奈良県から伊方原発の沖合にかけて延びる中央構造線断層帯などの評価を見直すよう要求。四電は基準地震動を650ガルに引き上げたほか、津波の高さも約8・1㍍に上方修正した。規制委が設けた非常に厳しい新基準の審査をクリアした粘り強い対応を評価したい。

 しかし再稼働のプロセスは長期化しており、その動きは遅く楽観視できない。

 昨年9月に初めて新基準に適合した川内1、2号機は、地元同意を得たものの停止したままだ。高浜原発は今年4月、地元の福井地裁から運転を認めない仮処分の決定を受けた。関電は異議を申し立て異議審が行われているが、決定が取り消されない限り動かせない。伊方原発に関しても運転差し止めを求めた訴訟が松山地裁で審理中だ。判決によっては高浜原発と同様に再稼働が遅れる可能性がある。

 他の原発については、地震対策にメドがつきつつある関電の大飯原発(福井県)、九電の玄海原発(佐賀県)が早ければ今夏に合格する可能性がある。しかし収支改善を急ぐ電力会社はいずれも再稼働の遅れに焦りを募らせている。

 経済産業省の試算によると、原発停止に伴う天然ガスや重油などの火力発電の燃料費の増加分は、14年度で年間3・7兆円に上る。大きな国富の流出と言うべきだ。政府は原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、30年度に依存度を20~22%とする方針だが、稼働ゼロが打開されない限り実現は程遠い。再稼働が遅れれば燃料費がさらに膨れ上がり、ひいては景気回復の足を引っ張りかねない。

 電力の安定供給や二酸化炭素(CO2)の排出削減を確かなものにするためにも再稼働が急がれる。安倍晋三首相は6月、ドイツでの先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)で、30年までの温室効果ガス26%削減目標をうたう方向だが、実情に照らして説得力が伴わない。

信頼勝ち取る工夫も

 このような中で、四電には、現実的な安全対策の確立と粘り強い住民説得で、早急な再稼働にこぎ着けてもらいたい。田中俊一・規制委委員長は「絶対安全を求めると、結局は安全神話に陥る」と言明している。過去には事業者側に軽微な事故はその事実を公開しないなどの思考があった。四電は「安全、安心」を築く工夫や仕組みづくりを継続的に積み重ね、住民の信頼を勝ち取ってほしい。

(5月23日付社説)