米国防総省、中国の南シナ海活動を懸念


 米国防総省は、中国の軍事力を分析した年次報告書を公表した。中国が南シナ海で大規模な埋め立てや施設建設を急ピッチで進めていることに強い懸念を表明した。

 岩礁埋め立てに言及

 報告書は、南シナ海域の急速な拠点拡大について「多くの識者は、中国が領有権の現状変更を意図しているとみている」との見方を示した。

 周辺国と領有権を争う南沙(英語名スプラトリー)諸島での岩礁埋め立てに初めて触れ、「港湾、飛行場などの建設に進展している」と指摘、岩礁が「永続的な民生・軍事の活動拠点」となると警告した。

 報告書は岩礁名に言及していないが「4カ所では、埋め立て作業から基盤施設の整備に移っている」とし、通信・偵察施設、港湾、滑走路、後方支援施設などを建設しているとみている。

 係争海域でのプレゼンスを際立たせるばかりでなく、実効支配を強める過程にあることを、今から指摘することは重要である。埋め立ては、平和と安定という地域の願望とはどう見ても合致しない。

 報告書は、昨年末時点における埋め立て面積を約2平方㌔と記載している。ただし米国防当局者は公表に際し、中国が2015年に入り新たに約6平方㌔を埋め立て、現在の総面積は報告書の4倍に当たる約8平方㌔に達したことを明らかにした。これは東京ドームおよそ170個分に相当することになる。

 アジア太平洋を管轄するハリー・ハリス米太平洋艦隊司令官は「前例のない規模」の埋め立て工事の進捗(しんちょく)を、「浚渫(しゅんせつ)船とブルドーザーを使い、『砂の万里の長城』を築いている」と語った。中国による領有権主張の強化が懸念される。

 一方、防衛省は、中国海軍のジャンダオ級フリゲート艦1隻が沖縄県・尖閣諸島沖の東シナ海を東進するのを確認した。接続水域での航行や領海侵入はなかったが、自衛隊が同型艦を確認したのは初めてである。公表された写真からは後部甲板にヘリコプターの発着スペースが確認できる。

 先月末、米国を訪問した中谷元防衛相はカーター米国防長官と会談後、南シナ海問題について「国際的な規範を順守し協調的な役割を果たすよう、中国に働き掛ける」と述べたが、東シナ海でも同じことが言える。

 中国は周辺海域での進出を強める一方である。今や南シナ海での活動が東シナ海へと波及しないとする保証は全くない。

 日米両政府は再改定された防衛協力の指針(ガイドライン)の内容を踏まえ、南シナ海における自衛隊と米軍による共同の警戒監視実施について検討に入った。南シナ海は日本が原油などを輸入するためのシーレーン(海上交通路)でもあり、その安定を図るのは当然だ。

 日米共同対処の体制築け

 安倍政権下の安全保障法制整備では、自衛隊が米艦艇などを防護できるようにする自衛隊法の改正も含まれており、共同監視を行う上での法的枠組みづくりも進んでいる。

 平時から日米共同で効果的に対処する体制を構築することが急務である。

(5月11日付社説)