東京五輪に向け文化大国目指そう


 きょうは文化の日。2020年の東京五輪開催が決まったのを機に、日本文化の海外への発信に一層力を入れていこうという機運が盛り上がっている。そのためには発信の在り方とともに、日本文化の保存・育成と創造を考える必要がある。

 富士や和食が世界遺産に

 1964年の東京五輪は、戦後復興を成し遂げた後、高度成長のまっただ中で開かれた。その勢いに乗って日本は経済大国となり、性能のいい工業製品を作る国というイメージが国際的に確立された。

 20年東京五輪に向けて、日本はどのような国の姿を世界に示すのかが問題だ。やはり東日本大震災の痛手から復興し、21世紀の世界をリードするような姿を見せたい。

 その鍵となるのが、文化である。日本は経済大国であるばかりでなく、文化大国でもあると誇れるようになることが求められる。

今年は、日本の文化にとって記念すべき年となった。東京五輪開催決定のほか、4月に日本の伝統芸能の華、歌舞伎の殿堂である東京・銀座の歌舞伎座が新劇場としてオープンした。

 そして6月には、信仰と文化の源泉となった富士山が世界文化遺産に登録された。日本の象徴である富士山の登録は、特別な意味合いを持って受け止められた。

 また「和食」も来月、世界無形文化遺産に登録される見通しだ。和食は世界的な健康志向の中で広まりつつあるが、素材の味を生かすことや見た目の美しさなど、そこに日本人が歴史的に育んできた文化があることを世界の人々に伝える好機である。

 いま「クール・ジャパン」の名で、最も注目を集める日本文化と言えば、漫画やアニメなどポップ・カルチャーである。世界の若者が日本のポップ・カルチャーに関心を持つことはかつてなかったことだ。これまでは禅や武道など伝統的なものが中心だった。

 これら漫画やアニメにも日本の伝統文化の背景があることは、せんだって引退を表明したアニメ映画の宮崎駿監督の作品を観ても明らかである。劇にしても、能があり、文楽があり歌舞伎がある。そういう層の厚さも日本文化の大きな特徴だ。

 日本が文化大国となり、世界に文化を発信していくためには、新しい文化の創造がなければならない。

 その源泉となるのが伝統文化や文化財であり、それらをしっかりと保存していく必要がある。そういう意味でも、重要文化財の所在が不明などといったことはあってはならない。

 日本美術の普遍的な価値が、明治期に来日した米国の東洋美術史家アーネスト・フェノロサの“発見”を契機に認識されたように、日本人は外国人に評価されて初めて、自国の文化の素晴らしさに気付くという傾向がある。

 豊かな伝統に親しもう

 日本文化の美点を日本人自身がまず認識し、また育んでいくことが重要だ。

 層が厚く、豊かで多彩な伝統文化にわれわれがもっと親しむこと、それらが新しい文化創造の基盤となる。

(11月3日付社説)