空爆だけでイスラム国掃討に対処できるのか


 イラク北部からシリア東部の地域を占拠しているイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」は、6月末に国家樹立を一方的に宣言して以来、着実に勢力拡大を続けている。

 一方、イスラム国に対抗する各国の連携は緒に就いたばかりだ。欧米諸国の空爆が始まったものの、戦果を上げるまでには至っていない。これではイスラム国の思うままの状況になってしまう。有志連合を主導する米国は、地上軍派遣も視野に入れる必要がある。

 弱体化にはつながらず

 米中央軍は、勢いを増すイスラム国を掃討する軍事作戦を「固有の決意」と名付けた。作戦は米軍独自に展開するわけにはいかず、各国の協力が前提である。そのためには作戦名が必要であった。

 すでに米軍は8月にイラク、9月にはシリア領内でイスラム国に対する空爆を開始している。作戦名の公表は掃討の決意の表れである。

 イスラム国は今年初めからファルージャなどイラク西部で拠点を築き、イラク国軍と抗争を繰り返していた。6月に世界有数の石油生産で知られるイラク第2の都市モスルを陥落させ、一気に勢力を拡大した。

 イスラム国の指導者バグダディ容疑者は、もともとはアルカイダ系の組織に属していた。現在はそれ以上の過激組織を支配し、自らをカリフ(預言者ムハンマドの後継者)と称している。

 そのイスラム国が奴隷制の復活を宣言した。奴隷制をイスラム法に基づくものと正当化した上で「イスラム法が(世界で)放棄されて以来かつてない規模」と「戦果」を誇り、誘拐した少数派のヤジディ教徒の女性や子供を奴隷として売買の対象にしていることを明らかにした。

 民主主義国に住む人間にとっては、到底理解できない発想である。英国人の援助関係者、米国人ジャーナリスト、イラクの女性人権活動家を公開殺害するなど、残酷さは全世界に強く印象付けられている。

 デンプシー米統合参謀本部議長は、掃討作戦について勝算はあると言明した。ただ、イスラム国について「国家安全保障上の脅威」だと強調するとともに、空爆だけでは打倒することはできないと付け加えた。

 オバマ米大統領は、イラクやシリアに米地上軍を派遣する考えがないと表明している。しかし、軍関係者や専門家の間ではイスラム国掃討には地上部隊が不可欠とみる向きも多い。ゲーツ元米国防長官は、派遣の可能性を排除することで「大統領は自縄自縛に陥っている」と指摘した。

 米軍などの空爆作戦が行われているにもかかわらず、イスラム国の勢力は拡大している。イラクでは今月に入って西部アンバル州の全域をほぼ完全に掌握。首都バグダッドではイスラム国が実行したか、関与が疑われるイスラム教シーア派を標的とした自爆テロが相次ぎ、シーア派が主軸のアバディ政権は権力基盤を脅かされつつある。

 いずれ決断を迫られる

 イスラム国掃討には早晩、空爆だけでなく地上軍派遣を決断しなければならない時期が来るに違いない。

(10月22日付社説)