難病治療のためiPS移植を実用化したい


 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた臨床研究を進めている理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)などのチームは、目の難病のため視力が低下した兵庫県の70代女性に、iPS細胞から作った網膜の細胞を移植する世界初の手術を行った。

 実用化されれば、これまでの技術では難しかった難病の完治にもつながる。安全性の確保など、さまざまな課題を克服してほしい。

応用でも世界をリード

 術後の経過は順調で、女性は手術を受けた先端医療センター病院(同)を退院した。今回の臨床研究は安全性の確認が主な目的で、移植した細胞が根付くか、がんになる危険がないかなどを4年かけて確認する。視力回復の効果があるかも併せて調べる。

 山中伸弥京都大教授が2006年に開発したiPS細胞が初めて人への移植に使われたことで、再生医療研究は新たな段階に入った。今回の研究は、iPS細胞の応用でも日本が世界をリードしていることを示したと言える。それでも、実用化までには時間がかかる。政府には長期的な視点で支援することを求めたい。

 女性は、網膜のうち光を感じる「神経網膜」へ栄養を送る「色素上皮」に異常な血管が生え、視力が低下する「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性」を患っていた。手術では右目の異常な血管と、血管が生えて傷んだ色素上皮を除去。女性本人の皮膚から作ったiPS細胞を色素上皮の細胞に変え、1辺が1・3㍉、もう1辺が3㍉の長方形のシート状にしたものを代わりに移植した。

 女性は症状が進み、視力も0・1に満たないため、期待できる治療効果は進行を止める程度だ。だが今後も数人の患者で安全性と効果を検証し、将来は大幅な視力回復につながる治療法にできる可能性がある。

 もっとも、実用化に向けて課題は多い。今回は他人の細胞を移植した時のような強い拒絶反応は起きないと考えられるが、人工的に作られた細胞のため、体が異物と認識し、消える可能性も否定できないという。

 患者1人にかかる治療費は現在、数千万円から1億円に上る。将来は、あらかじめ用意した細胞を使用して費用を10分の1以下に抑える計画だ。しかし、そのためには品質のそろった細胞を大量に培養することが必要となる。

 パーキンソン病や心不全、脊髄損傷などの治療に関しても、iPS細胞を使った臨床研究の準備が進んでいる。今回の臨床研究を率いる理研の高橋政代プロジェクトリーダーの夫である高橋淳京都大教授は、iPS細胞から神経細胞を作ってパーキンソン病患者の脳に移植する研究を予定している。実用化へのハードルは高いが、研究者には奮起してもらいたい。

成果の積み重ねが肝要

 京都大や慶応大の研究チームはアルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者の細胞からiPS細胞を作り、病気を再現することに成功した。薬の開発や病気の仕組みの解明に役立とう。成果を一つずつ積み重ねていくことが肝要だ。

(9月20日付社説)