川内原発「合格」、再稼働へ地元の不安払拭を


 原発再稼働の前提となる新規制基準への適合性審査で、原子力規制委員会(田中俊一委員長)は、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)について「新基準を満たしている」とした審査書を正式決定した。再稼働をできるだけ早期に実現し、他の原発へと波及させたい。

想定より長引いた審査

 川内原発は昨年7月、新基準施行の初日に審査を申請した。田中委員長は「規制委として、法律に基づいて求めてきたレベルの安全性が確保されることを確認した」と述べた。

 しかし審査の期間は当初、半年程度と想定されていたが、実際は1年以上かかった。念には念を入れるとしても、規制委はもっと効率的に行うべきだ。川内原発の審査を踏まえ、改善に努めてほしい。

 もっとも、合格には他に二つの許認可が必要。合格しても地元自治体の同意や起動前の検査などがあり、再稼働は年明け以降になる見通しだ。

 原発停止が続く中、九電と関西電力は今年の夏、電力の供給余力を示す予備率が最低限必要な3%に満たなかった。電力各社は代替電源として火力発電に依存しているが、老朽化した設備がトラブルを起こせば大規模停電発生の恐れもある。

 また火力発電用の燃料費が急増し、電力会社の経営を圧迫している。すでに北海道電力が電気料金の再値上げを経済産業省に申請したほか、審査中の原発の再稼働が想定より遅れている東京電力や関電も再値上げを表明する可能性がある。このままでは家計や企業の負担が増し、景気の足を引っ張りかねない。

 川内原発の再稼働に向けて求められるのは、政府が地元自治体との調整で前面に立つことだ。政府は「事故が起きた場合には、政府は責任をもって対処する」との方針を示した小渕優子経産相名の文書を、鹿児島県の伊藤祐一郎知事に手渡した。

 また原発事故に備えた避難計画の策定については、原子力災害対策特別措置法などで「自治体の事務」とされていることから、政府はこれまで地元に丸投げしてきた。しかし今回、策定を支援するために内閣府や経産省の職員ら計6人を鹿児島県に派遣した。地元の理解を得るためには、さらに関与を強めていく必要がある。

 東電福島第1原発事故の影響で、再稼働に対する国民の不安は依然強い。川内原発に関しても、半径160㌔圏内に5カ所のカルデラがあり、巨大噴火に襲われる危険性が全国で最も高いとされている。

 一般から1万7000件以上寄せられた意見では、専門家が予知の困難さを指摘する巨大噴火に対し、規制委が「運転期間中に起きる可能性が低い」と判断したことへの懸念が多かった。田中委員長は「モニタリングをしっかりする」と強調しているが、再稼働に向け政府には一段と丁寧に説明し、地元の不安を払拭することが求められる。

福島事故の教訓を学べ

 政府は福島第1原発事故で現場を指揮した吉田昌郎元所長(故人)に対する聴取記録(吉田調書)を公表した。政府や電力会社は事故の教訓を学び、原発の安全確保を徹底すべきだ。

(9月14日付社説)