デング熱の拡大防止のため一層の啓発を


 デング熱の国内感染者が増え続けている。東京都渋谷区の代々木公園だけでなく、新宿区の区立新宿中央公園で感染したとみられる患者も確認された。

 政府や自治体は感染拡大を防止するため、予防策など一層の啓発に努めるべきだ。

代々木公園などで感染

 デング熱は蚊が媒介するデングウイルスによる感染症で、人から人に直接感染することはない。国内感染は先月末に約70年ぶりに確認された。

 ただ旅行者が海外で感染し、帰国後に発症する例は年200件ほど報告されている。感染者は5日現在で14都道府県の計72人に上っているが、いずれも最近の海外渡航歴はなく、新宿中央公園の例を除く全ての患者は代々木公園周辺を訪れていた。帰国した旅行者から蚊を媒介して感染したとみられる。

 代々木公園で採集した複数の蚊からデング熱のウイルスが検出されたため、東京都は一部を除き同公園を閉鎖し、蚊の駆除作業を行った。隣接する明治神宮でも、一部の通路が通行止めとなった。

 デング熱は2~15日の潜伏期の後、発熱や頭痛、筋肉痛、発疹などの症状が出る。ワクチンはなく、対症療法でウイルスが体内から消えるのを待つしかない。熱帯地域を中心に年間最大で1億人が発症し、毎年1万~2万人が死亡するとされる。

 もっとも大半は1週間程度で回復し、重篤化することはまれだ。感染が確認された人の中にも重症者はいない。過度に不安を持つ必要はないが、代々木公園や新宿中央公園に限らず、蚊に刺されて発熱などの症状が出た場合は早急に医療機関を受診してほしい。

 予防のためには、長袖、長ズボンの着用や虫除けスプレーなどで、一人ひとりが蚊に刺されないように身を守ることも求められる。政府や自治体は啓発強化を急ぐべきだ。

 新宿中央公園で感染したとみられる患者は30代男性で、男性から検出されたウイルスの遺伝子配列は、これまでの患者と同一だった。代々木公園周辺で感染した人が新宿中央公園でさらに蚊に刺され、この蚊が男性を刺した可能性が高い。

 厚生労働省は、新宿、渋谷両区などに対し、大規模で利用者の多い公園での蚊の調査を要請した。来年以降も国内感染が発生することを想定し、対策を講じるべきだ。ワクチンや治療薬の実用化を急ぐ必要もある。

 国境を越えた人の往来が盛んな現在、デング熱に限らず、さまざまな感染症が国内で発生する恐れがある。

 日本に流入する可能性が低いとはいえ、西アフリカで猛威を振るっているエボラ出血熱に対しても警戒は怠れない。世界保健機関(WHO)は8月、「緊急事態」を宣言し、感染者が見つかっていない国を含め各国に対策を呼び掛けた。しかし、感染者の増加に歯止めが掛かっておらず、死者は2000人近くに上っている。

感染症対策強化の契機に

 デング熱はエボラ熱と違い、致死率はきわめて低いが、今回の国内感染発生を海外から持ち込まれる感染症への対策強化の契機とすべきだ。

(9月6日付社説)