ロシアはマレーシア機撃墜の解明に全面協力を


 ウクライナ東部ドネツク上空でのマレーシア航空17便(MH17)ボーイング777型機撃墜事件により乗員乗客298人の命が一瞬にして奪われた悲劇から1カ月が過ぎた。親露武装勢力による誤射の可能性が高いが、調査は難航している。同勢力の後ろ盾のロシアは事件解明に全面的に協力すべきだ。

 戦闘地域の調査難航

 最多の193人の犠牲者を出したオランダが中心の原因究明の国際調査団約100人が、国際民間航空機関(ICAO)と協力し、7月末から本格的な現場調査に入った。だが、約20平方㌔もの広範囲に及ぶ、ばらばらになった機体や遺体の墜落現場は、ウクライナ内戦の戦闘地域で、調査作業は難航した。

 「安全確保が困難」(ルッテ・オランダ首相)のため、わずか1週間ほどで調査団は撤収を余儀なくされた。調査できたのはわずか3・5㌔の範囲で、機体の残骸は現場に残されたまま。収容されていない遺体も少なくないと言われる。

 親露武装勢力側がいったん回収した「ボイスレコーダー(音声記録装置)」と「フライトデータレコーダー(飛行記録装置)」の二つのブラックボックスは事件5日後にマレーシア側に引き渡され、現在、英国で解析が進められているという。

 墜落現場が親露武装勢力の支配地域であったことから、ロシアから供与された同国製「ブク」防空システムの地対空ミサイルによって同勢力が誤射した疑いが強い。ウクライナ当局はじめ欧米諸国はそのように主張し、ロシアの責任を追及。さらなる対露制裁に踏み切った。日本も追加制裁を断行した。

 しかし、ロシア側は直ちに反論し、武装勢力に「ブク」を供与した事実はない、事件直前に2機のウクライナ空軍戦闘機Su-25がMH17を追尾しており、機体残骸の痕跡(機首部分の大穴)から戦闘機の空対空ミサイルによる撃墜の可能性がある――などと主張した。

 「真犯人」をめぐってウクライナ・欧米諸国とロシアの対立が続く中、国連安全保障理事会は事件に関する決議を、ロシアも含む15カ国全会一致で採択した。オランダ、マレーシアに次いで3番目に多い犠牲者27人を出したオーストラリアが起草したこの決議は、多くの人命が失われたことを強く非難するとともに、関係各国に原因解明に向けた包括的な国際調査への協力を求めている。

 なお、露紙「コメルサント」によれば、9月第1週にも、オランダ安全委員会は事件の最初の暫定調査結果を発表する予定だ。「ブク」地対空ミサイルが墜落の原因と特定できれば、ロシアの主張が大きく揺らぎ、解明に一歩近づくことになる。

 日本は対露圧力強めよ

 撃墜事件が起きた背景には、ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合し、影響力確保のためウクライナ東部の情勢を不安定化させたことがある。

 日本の制裁に反発するロシアはこのほど、北方領土を含む極東地域で軍事演習を行った。日本は他国の主権と領土の一体性の侵害を容認しないことを示すためにも、ロシアへの圧力を強めるべきだ。

 (8月20付社説)