朝日慰安婦報道、日本の信頼損ねた責任は重い


 朝日新聞は8月5日と6日の両日付で「慰安婦問題を考える」の特集を組んだ。

 そして、5日付の特集の中で「読者のみなさまへ」と題して一部の記事が虚偽であったことを認め、記事を取り消すと発表した。

 強制連行証言を取り消し

 今回取り消されたのは、戦争中に朝鮮人の女性を強制連行したとする自称・元山口県労務報国会下関支部動員部長の吉田清治氏の証言に関する記事16本である。

 朝日が吉田氏の偽りの証言を大々的に報道したことが、日韓関係や日本の国際的信用に与えたダメージは極めて大きい。にもかかわらず、同紙の特集には明確な謝罪と反省の言葉はない。これらの責任について頬かぶりすることは許されない。

 「慰安婦問題」で今、最大の争点になっているのは、女性たちが日本の官憲によって組織的、暴力的に強制連行されたかどうかである。

 慰安婦について長い間、「強制された」とのイメージが抱かれるようになったのは、1991年から92年にかけての朝日の記事によってだった。その点、同紙の責任は重い。同紙の用語解説には「太平洋戦争に入ると、主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した。その人数は8万とも20万ともいわれる」とあった。

 さらに済州島での「慰安婦狩り」を証言した吉田氏が朝日紙上にしばしば登場したことで「強制連行」という言葉が定着してしまった。

 今回の特集において「読者のみなさまへ」は次のように述べている。「軍などが組織的に人さらいのように連行した資料は見つかっていません」「吉田氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした。済州島を再取材しましたが、証言を裏付ける話は得られませんでした」

 誤報を認めたのだ。これで慰安婦が強制連行されたという朝日の従来の主張の根幹は完全に崩れた。

 同紙が根拠のない吉田証言を大きく報道したのは、強い反軍姿勢のため、綿密な裏づけ調査もせずに証言に飛びついたためと言ってよいだろう。

 朝日は吉田証言の取り消しのほか、戦時下に女性を労働力として動員するために組織された女子勤労挺身隊と慰安婦を同一視した記事の誤りを認めた。基本的な問題についての大きな報道ミスである。

 残念なのは、「強制連行された」とする朝日の誤報でわが国の名誉と対外信用が著しく傷つけられたことだ。

 また、同紙報道に押された形で「元慰安婦」という韓国人女性が謝罪と損害賠償を求める訴訟を日本政府を相手に起こし、日韓関係をこじらせることになった。

 正しい歴史認識が必要

 現在、日韓関係はいろいろな問題を抱えて緊張しているが、それを解きほぐすには、歴史問題についての共通認識を持つことが必要だ。

 その点、慰安婦問題は一つの試金石となろう。

(8月9日付社説)