中南米歴訪、歴史的な「絆」の強化を歓迎


 安倍晋三首相は中南米5カ国を歴訪した。この地域は日本からの移民が多い。今回の歴訪で歴史的な「絆」が再確認され、国連安全保障理事会改革の進展や経済・エネルギー分野での連携強化でも一致したことを歓迎したい。

 安保理改革でも一致

 首相が訪れたのは、メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリ、ブラジルの5カ国。最後の訪問国ブラジルではルセフ大統領と会談し、「国連創設70周年(に当たる来年)を見据え、具体的な改革の進展が重要だ」と述べ、安保理常任理事国入りを目指す日本、ブラジル、ドイツ、インドのG4諸国で緊密に連携していく必要があると強調した。

 中南米33カ国は、国連加盟国全体の18%を占める「票田」でもある。その意味でも、この地域との関係強化は重要だ。

 経済分野では、ブラジルと海底油田開発のための造船技術協力に関する合意文書を交わし、メキシコとは石油やシェールガスなどのエネルギー安定調達に向け、連携を強めることで一致。世界全体の銅生産の約3割、リチウム生産の約4割を占めるチリとは鉱業分野での協力を促進していくことで合意した。

 また、首相はトリニダード・トバゴで日本とカリブ共同体(カリコム)加盟国による初の首脳会合に出席。津波などの自然災害や、地球温暖化による海面上昇の影響を受けやすい小さな島国への支援を継続するため、政府開発援助(ODA)に代わる新たな支援制度を検討すると表明した。

 一方、この地域では近年、中国が投資を拡大して存在感を強めている。今回の首相外遊には、こうした中国の動きに対抗する狙いもあった。

 日本から中南米諸国への投資額は世界4位。今もアジアでは最大の投資国だ。ただブラジルに関しては、中国が貿易総額で2000年代半ばに日本を抜いてアジアの首位になった。現在は日本のほぼ5倍だ。

 中国の習近平国家主席は首相に先んじて、ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラ、キューバの中南米4カ国を訪れた。巨大な経済力を武器に中南米諸国を取り込み、「米国の裏庭」で米国を牽制(けんせい)して影響力と存在感を高めることが狙いだ。キューバではフィデル・カストロ前国家評議会議長と会談し、キューバとともに反米路線を進むベネズエラでは反米強硬左派指導者で2013年に死去したチャベス前大統領の墓を訪れた。

 日本の安保理常任理事国入りに反対している中国がこの地域への影響力を強めれば、これまで日本を支持していた国々が態度を変える可能性も否めない。ブラジルで開かれた新興5カ国(BRICS)首脳会議で、習主席は「いかなる勢力も侵略の歴史を覆そうとすることを許してはならない」と歴史問題を持ち出して日本を牽制した。

 中国念頭に戦略的外交を

 首相は各訪問国で中国の強引な海洋進出を念頭に、国際法の順守や「積極的平和主義」を打ち出す日本への賛同を求めた。一層の関係強化を進めるには、対中南米外交の戦略的方針が求められる。

(8月3日付社説)