拉致解決に向けモンゴルと連携強化を


 安倍晋三首相はモンゴルのエルベグドルジ大統領と会談し、経済連携協定(EPA)を結ぶことで大筋合意した。

 北朝鮮と国交のあるモンゴルとの関係強化は、日本人拉致問題の解決に向けても重要だ。

EPA締結へ大筋合意

 日本にとっては今月署名したオーストラリアに続き15番目のEPAとなる。一方、モンゴルは初めての締結だ。両国のEPAでは、日本から輸出する新車や一部中古車(製造後3年以内)の関税(5%)を即時撤廃。日本側は、加熱した牛肉の輸入について、一定の範囲内で低関税を認める「関税割当制度」を導入する。

 昨年の日本からモンゴルへの輸出額は293億円、モンゴルからの輸入額は19億円で、いずれも少ない。しかし、モンゴルとのEPA締結は政治的に大きな意味を持つ。

 モンゴルと友好関係にある北朝鮮は、日本人拉致被害者に関する再調査を開始する一方、国連安全保障理事会決議に違反して弾道ミサイル発射を繰り返す暴挙に出た。これは北朝鮮に対する日米韓の連携を揺さぶる狙いもあろう。

 モンゴルでは2012年11月に日朝協議が行われたほか、今年3月には拉致被害者、横田めぐみさんの両親である横田滋さん、早紀江さん夫妻が、めぐみさんの娘キム・ウンギョンさんと面会するなど拉致問題との関わりが深い。

 安倍首相もモンゴルを重視しており、昨年3月には日本の首相として7年ぶりにモンゴルを訪問。同9月には訪日したエルベグドルジ氏を私邸に招くなど関係強化を図ってきた。12年末の第2次安倍政権発足後、両首脳の会談は電話を含めて今回で5回目となる。モンゴルには拉致問題解決に向けた協力を強化してほしい。

 中国とロシアに挟まれたモンゴルは、地政学的にも重要な位置を占める。エルベグドルジ氏は中露両国と良好な関係を保ちつつ、「第3の隣国」として日米とも関係発展を図っている。日本にとっても、民主主義や人権などの価値観を共有するモンゴルとの連携強化は、経済・軍事両面で台頭する中国への牽制(けんせい)効果を期待できよう。安倍首相は集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定について説明し、エルベグドルジ氏は理解を示した。

 モンゴルでは高度成長が続いている。11年の経済成長率は17・3%を記録し、昨年も11・7%に達した。世界最大規模の埋蔵量とされるタバントルゴイ炭田をはじめ、銅やレアメタルなど鉱物資源が豊富で、外資を導入した資源開発を進めている。参画を狙う日本企業も多い。

 しかし、モンゴル経済は中露両国に大きく依存している。モンゴルの輸出全体の9割は対中国だ。このままでは中国にのみ込まれてしまうのではないかとの危機感も強まっている。

地域の安定につなげよ

 安倍首相は会談後の共同記者発表で「戦略的パートナーシップ強化のため、経済関係の一層の緊密化が重要との認識で一致した」と述べた。両国の経済関係強化を地域の安定につなげる必要がある。

(7月23日付社説)