日朝人的往来、スパイ防止法制定が必要だ


 北朝鮮が日本人拉致被害者らの安否調査を行うのと引き換えに、政府は独自に科してきた対北制裁の一部を解除する。それによって人的往来や人道目的の北朝鮮籍船舶の入港などが認められ、再び北朝鮮関係者が国内に出入りする。

 これまでこうした人的往来に紛れて工作員が潜入し、拉致やスパイ活動を行ってきた。制裁解除でそうした危険がないのか、防諜(ぼうちょう)体制の在り方が改めて問われている。

潜入工作員が拉致を実行

 政府が認定する北朝鮮による拉致被害者17人(うち5人は帰国)は氷山の一角にすぎない。拉致の疑いを排除できない行方不明者は数百人規模に上る。特定失踪者問題調査会の調査では約470人が拉致された可能性がある。その大半は日本国内での犯行とみられている。

 その際、利用されたのが人的往来だ。工作員は貨客船「万景峰号」などで巧妙に入国し、日本国内にスパイ工作網を作った。東京都足立区で1985年に摘発された西新井事件では北海道出身の小住健蔵さん(現在も行方不明)に成り済ます「背乗り」でスパイ網を張り巡らした。

 この工作員は78年に蓮池薫さん夫婦を拉致したチェ・スンチュル容疑者と確認され、警察庁は2006年に国際手配している。78年に地村保志さん夫婦、80年に原敕晁さんを拉致した辛光洙容疑者も在日組織を使って活動していた。

 韓国の朴正熙大統領を暗殺しようとした文世光事件(74年)では日本国内で射撃訓練や武器調達が行われ、大韓航空機爆破事件(87年)では日本人の旅券が使われた。いずれも在日工作網が関わった国際テロだ。スパイ活動は北朝鮮が拉致を認めた02年以降も頻発している。

 なぜ、やすやすと工作活動を許してきたのか。それはスパイ活動を防備する法整備がされてこなかったからだ。いずれの国も刑法や国家機密法などに「スパイ罪」を設け、スパイ行為や工作活動を防止している。ところが、わが国にはそれがない。

 民主主義国は罪刑法定主義が基本原則で、あらかじめ犯罪の構成要件や刑罰を定めておかなければ、いかなる犯罪も取り締まることができない。スパイ罪がなければスパイ活動は犯罪ではなく“合法”となり、自由な活動を許すことになる。「スパイ天国」と呼ばれたゆえんだ。

 それでスパイ行為に付随する行為についてだけ立件した。例えば、出入国管理法違反や電波法違反、あるいは窃盗などの容疑だ。いずれも重罪ではなく、初犯なら執行猶予がつく。

 このためスパイは大手をふって帰国した。12年の在日中国大使館書記官スパイ事件でも外国人登録法違反を問えただけだ。年内に施行される特定秘密保護法も機密の漏洩(ろうえい)を防ぐだけで、スパイ活動は取り締まれない。

防備体制を構築せよ

 政府は今回の制裁解除で「万景峰号」の入国は認めないとしている。だが、別の船舶でもスパイ活動は可能だ。人的往来や船舶入港を認めるなら、スパイ罪を規定するスパイ防止法の制定と防諜機関の設置によって、しかるべき防備体制を構築しておくべきだ。

(7月8日付社説)