国際テロ対策へ万全の体制作りを


 2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、日本のテロ対策が問われている。五輪はテロの標的にされやすいからだ。

 今年4月には米ボストン・マラソン爆弾テロ事件が発生した。五輪の東京開催決定に際しては「安全」が高く評価されただけに、テロ防止へ万全の体制作りが急がれる。

海外では軍隊を投入

 ミュンヘン五輪(1972年)ではパレスチナ武装組織が選手村を襲い、イスラエルのアスリート11人が殺害された。アトランタ五輪(96年)でも開催中に五輪公園で爆弾テロが発生し、犠牲者を出した。

 五輪を開催する上で最大の課題の一つがテロの封じ込めだ。01年の米同時テロ後のアテネ五輪(04年)や北京五輪(08年)では軍隊が動員された。昨年のロンドン五輪では集合住宅の屋上に地対空ミサイルまで配備されたが、それでも開幕日には電気系統などに1000万回以上のサイバー攻撃を受けた。

 ロシアでも来年2月のソチ冬季五輪に向け、国を挙げてテロ対策に取り組んでいる。わが国ははたして大丈夫だろうか。

 日本のテロ対策は不十分だと指摘されて久しい。第一に、海外では無差別に人命を奪おうとするテロを「戦争」と捉える。だから軍隊まで投入して対策に当たる。ところが、わが国では原発警護でも自衛隊の活用に消極的だ。

 第二に、テロ対策では国家間で情報を共有するのが有効だ。このため日米両政府は9月、テロ関与などが疑われる人物の入国を防ぐため、犯罪者の指紋データベース情報を互いに即時提供する協定(PCSC協定)を結ぶことで合意した。

 情報の共有をめぐっては、漏洩が致命傷になりかねない。しかし、わが国は情報保全体制が未整備のままで、不安を残している。

 例えば、警視庁は10年秋に国際テロに関する極秘書類100点以上をネット上に流失させた。流出元を特定するため捜査が進められてきたが、先月29日に公訴時効を迎え、ついに犯人を突き止められなかった。

 情報が流出すれば、テロを防止できなかったり、捜査協力者の生命を脅かしたりしかねない。これでは他国に情報提供を望めず、わが国は情報真空地帯となる。

 ようやく政府は特定秘密保護法案を臨時国会に提出するが、これで十分とは思えない。防諜機関などの整備が不可欠だ。

 第三に、テロは犠牲者を出す前に封じ込めるのが鉄則だ。国連は2000年、国際組織犯罪防止条約を採択し、実効性のある取り締まりのため共謀罪の創設を各国に義務付けた。

 わが国は同年に条約に署名し、03年の通常国会で承認されたが、共謀罪が存在しないため、批准できないでいる。それで政府は共謀罪を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を国会に提出してきたが、いまだに成立していない。

共謀罪の創設を急げ

 共謀罪の創設を急ぎ、捜査体制を強化しなければならない。東京五輪開催に向け、テロ対策の課題は多い。早急に取り組んでもらいたい。

(10月10日付社説)