漁獲割り当て、持続可能な漁業へ重要な一歩


 持続可能な漁業へ、重要な一歩を歩み出すことになった。水産庁は日本周辺の水産資源の回復を目指す「資源管理のあり方検討会」の会合を開き、太平洋のマサバ漁で漁獲可能量を漁船ごとに割り当て管理する「個別割り当て(IQ)方式」を試験的に導入する方針を決めた。

魚価の維持も可能に

 日本の漁業生産は1984年の1282万㌧をピークに年々減少し、2012年は486万㌧にまで落ち込んでいる。太平洋のマサバに関しては、資源量が70年代に300万㌧を超えたが、01年には15万㌧に激減。12年には109万㌧にまで持ち直したが、この回復を確実なものとする必要がある。

 わが国の水産資源の管理は、サバ、マイワシ、スケトウダラなど7魚種を対象に毎年の総漁獲量を決める「漁獲可能量(TAC)制度」を採用してきた。しかし、この制度は、ヨーイドンで魚を獲るオリンピック方式と言われるもので、早くたくさん取った方が勝ちとなる。

 そのため、漁獲競争による資源の枯渇が起きるばかりでなく、船の大型化や機能強化のための費用の増大、漁期の集中による過剰供給で魚価が低下するなど、漁業の経営自体にもマイナスとなっていた。

 これに対し、IQ方式は漁船や地域ごとに漁獲量の上限が決められているため、大型魚を選別的に獲るようになり、産卵前の魚の保護につながる。また、過当競争による負担は減り、市場への供給を調整することで魚価の維持・向上も可能となる。

 事実、ノルウェー、米国、ニュージーランド、韓国などは、IQ方式や「譲渡可能個別割り当て(ITQ)方式」の採用で資源を回復させ、漁業経営を改善させるのに成功している。

 いまや世界の漁業先進国の中で、IQ方式を採用していないのは日本だけという状況となっている。世界一の魚食国であり漁業大国を自負してきた日本だが、持続可能な漁業という点では世界に遅れをとっているのが現状なのである。

 都道府県単位でみれば、11年9月から新潟県がホッコクアカエビ漁にIQ制度を導入し、徐々にその成果が出ている。

 水産庁は今秋からマサバ漁の主力となる大中型巻き網漁業の一部漁船を対象にIQ方式を導入し、資源の回復効果や経営への影響を検証。その上で他の魚種にもこの方式を導入していく考えだ。そういう意味では画期的な一歩となる。

 漁業者は「親の仇と魚は見たらとれ」という考え方を改め、戦略的な漁業経営へと転換する必要がある。政治や行政は、強いリーダーシップを持ってこれを後押しすべきだ。

 資源の減少、就労者の高齢化、国民の魚離れと、日本の漁業は明るい展望を持つことが難しい状況に置かれている。持続可能で経営的にも魅力がなければ、若い人も集まってこない。

戦略的な政策推進を

 しかし厳しい状況にあるとはいえ、魚種の豊富さや質の高さなど、日本近海の漁場としての潜在力はピカイチであることに変わりはない。問題はそれを生かす戦略的な漁業政策を推進できるかどうかである。

(7月5日付社説)