厚木基地訴訟、防衛と救難に支障来すな


 自衛隊機は午後10時から翌日午前6時まで飛行してはならない―。米軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(神奈川県大和、綾瀬両市)の周辺住民が起こした第4次厚木騒音訴訟で、横浜地裁はそんな判決を下した。これで国の守りや救難活動に支障を来さないか、疑問が残る判決だ。

 海自の夜間飛行差し止め

 厚木基地は米海軍の空母艦載機や早期警戒機が使用し、海自は不審船や潜水艦を警戒するP3C哨戒機や救難飛行艇などを常駐させている。国の守りや救難活動に欠かせない基地だ。

 こうした航空基地の周辺地域ではしばしば騒音被害が生じ、各地で訴訟が起こされてきた。今回の訴訟は1993年の1次訴訟最高裁判決で民事上の飛行差し止め請求が不適法とされたため、初めて行政訴訟で提訴されたものだ。

 判決は「睡眠妨害の被害は相当深刻」として過去最高の総額約70億円の支払いを命じた。また「自衛隊機の飛行は公権力の行使に当たり、特殊な行政処分」とし、「被害は健康や生活環境に関わる重要な利益の侵害で、飛行を差し止める必要性が相当高い」として、防衛相がやむを得ないと認める場合を除き、夜間の飛行の差し止めを命じた。

 しかし、飛行差し止めは疑問だ。すでに海自は飛行場規則で午後10時から午前6時までの訓練を原則自粛している。離島の急患搬送や海上救難活動で帰還が夜間に及ぶこともあるが、騒音被害は極めて限られている。仮に飛行が差し止められても、救難活動は「防衛相がやむを得ない」と判断するだろうから、状況は何ら変わらない。

 むしろ救難活動を躊躇(ちゅうちょ)させたり、不審船の警戒に後れを取ったりして、救難にも防衛にも支障を来しかねない。判決が他の基地訴訟に影響を与え、各地で同じような判決が下れば、全国的にも問題が生じる。とりわけイデオロギー的な反基地闘争に利用されないか危惧(きぐ)される。

 厚木基地で騒音の大半を占めているのは米軍機によるものだ。判決もそう判断するが、「国の支配が及ばない第三者の行為の差し止め」はできないとして請求を退けた。これは評価できる。日米同盟に齟齬(そご)を来すことがあってはならない。

 むろん判決が指摘するように「防衛相は住民の受忍限度を超える被害を防ぐ義務」がある。厚木基地については米海軍の空母艦載機を岩国基地(山口県岩国市)に移転させる。普天間基地(沖縄県宜野湾市)は基地全体を辺野古(同県名護市)に移す。政府はこうした日米合意による米軍再編策も粛々と進めていくべきだ。

 独り善がりな判断慎め

 それにしても最近の司法判断には疑問が多い。婚外子の相続分を嫡出子と同等にする最高裁判決、「1票の格差」をめぐって昨夏の参院選を無効とした広島高裁(岡山支部)判決、さらには関西電力大飯原発の運転差し止めを命じる福井地裁判決等々、司法の「独断」とも受け取れる判決が相次いでいる。

 国民の生命と財産を守る安全保障に関しては司法も慎重であらねばならない。独り善がりな判断は厳に慎むべきだ。

(5月26日付社説)