人口1億人維持、子育て支援と地方活性化を


 出産・子育てへの支援を倍増し、50年後も1億人程度の人口を維持する――。政府の経済財政諮問会議が設置した専門調査会「選択する未来」委員会は、日本の人口急減と超高齢化に対応するための提言をまとめた。

 画期的な数値目標設定

 これまで合計特殊出生率(女性が生涯に生む子供の数の合計)を高めるための施策が試みられてきたが、成果が上がらず、少子高齢化、人口減少を不可避とする一種の諦めムードすら漂いつつあった。同諮問会議が50年後も人口1億人を維持すると、具体的な数値目標を掲げたことは画期的なことだ。

 目標設定に対してこれまで、個人の生き方に国家が介入することになるとの批判があった。しかしこれは、戦前の「生めよ増やせよ」の時代に短絡させた的外れの批判である。国として大きな目標を掲げることは有意義なことであり、それにどう応えるかは個人の自由である。

 報告は、日本の総人口は今のような低い出生率が続けば、50年後には約8700万人と現在の3分の2まで減り、人口の約4割が65歳以上になると予測。経済の成長や財政・社会保障の継続が困難となると、警鐘を鳴らしている。

 こうした危機感を背景に、現在の1・4前後の合計特殊出生率を「30年までに2・07」に回復させる必要があるとし、そのために社会保障の重点を高齢者から子供へ移し、「出産・子育て支援の倍増」を要求している。

 これは日本の福祉政策の大きな方向転換と言える。国の将来を見据え、必要とするところに支援が行き渡るようにする妥当な選択だ。

 提言はまた、若者が安心して結婚できる環境を整備するために、長時間労働や二極化する正社員・非正規社員の労働環境改善なども盛り込んでいる。

 当面続く人口減少に対しては、20~70歳を新たな「生産年齢人口」と位置付け、「元気な高齢者の活用」を提言している。これは、近年の平均寿命や「健康寿命」の伸びに対応したものであり、試行錯誤しながら進めるに値する。福祉予算配分のシフトにも資するだろう。

 一方、提言は地方から東京圏への人口流出が日本全体の人口減に拍車を掛けているとしている。東京の出生率は1・1の全国最低レベルだ。東京が人口のブラックホールと化している現実を直視する必要がある。

 東京都は子育てや結婚への支援に力を入れるべきだ。そしてそれ以上に求められるのは地方の活性化であり、若者にとって魅力ある地方の拠点作りである。報告では「50年後、4分の1以上の地方自治体で行政機能の発揮が困難になる」と消滅の可能性も指摘している。

 価値観の転換が必要

 日本はいま、戦後一貫して続いている地方から都市へという人の大きな流れを転換させる時に来ているのかもしれない。それは、都市文化、個人主義のトレンドから地方と都市部の共栄、個人主義と家族・地域主義の調和といった方向にライフスタイルや価値観自体を大きく変えることを意味する。今回の提言を契機に議論を深め、方向を探るべきテーマである。

(6月16日付社説)