若田さんISSから帰還、貴重な経験を生かしたい


 日本人で初めて国際宇宙ステーション(ISS)船長を務めた若田光一さんが、ロシア宇宙船ソユーズで地球に帰還した。大役を果たし、無事に戻ってきたことを喜びたい。

 日本人初のISS船長

 帰還を前に、若田さんは短文投稿サイト「ツイッター」に「この青く美しい惑星が故郷であることをありがたく感じます」と記した。ISS離脱から着陸までかかった時間は3時間半。帰還カプセルは高度100㌔で大気圏に突入し、その後はパラシュートを開いて地上に降りた。

 若田さんの宇宙滞在は今回が約188日間、通算で約348日間に上り、日本人飛行士で最長となった。ISS長期滞在は、日本人では若田さんが2009年に行ったのが最初だ。この時は4カ月滞在し、日本実験棟「きぼう」を完成させた。

 2回目は昨年11月に始まり、生命科学や医学などさまざまな分野の実験のほか、小型衛星の放出や地球に最接近したアイソン彗星の撮影などを行った。また、得意のロボットアーム操作で故障修理のため船外活動した飛行士を支援した。

 中でも特筆すべきは、日本人初の船長という大役を果たしたことだ。船長はISSの運用や実験の実施、緊急時の安全確保などの責務を負う。若田さんの船長就任は、日本の技術や飛行士の能力が国際的に高く評価された証しと言えよう。

 若田さんは起床後と就寝前、任務規定にはない船内の見回りを続けるなど、日本人らしいリーダーシップを発揮した。12年に長期滞在した星出彰彦さんは「船長の活躍は目に見えにくい。大きなトラブルがなかったのは、若田さんが日々、問題を未然に防いだ結果だ」と指摘している。日本人飛行士への信頼を一層高めた意義は大きい。

 日本人では15年6月から油井亀美也さん、16年6月ごろから大西卓哉さんの長期滞在が予定されている。若田さんの貴重な体験を今後の有人宇宙活動に生かしたい。

 今年3月の就任の際、若田さんは「和の心を大切にして船長業務を全うできるように尽力したい」と抱負を語った。地上ではウクライナ情勢で米露間の緊張が高まる中、若田さんは2カ月にわたって米国人2人とロシア人3人を率いた。

 それだけにロシアが、ISSの運用を20年で打ち切る方針を示したことは残念だ。ISSへの往復は現在、ソユーズに限られ、運用にロシアの協力は欠かせない。

 米国は1月、ISSの運用期限を20年から4年間延長して24年にすると発表した。ロシアの方針が、ウクライナ情勢に関連して対露制裁を強める米国への「報復」だとすれば、あまりにも身勝手だ。

 宇宙開発の戦略が必要

 日本では13年から5年間の宇宙基本計画で、有人宇宙活動は「縮小」の対象とされ、ISS計画は費用対効果の観点から予算削減が打ち出された。

 しかし、ISSに物資を運ぶ無人補給機「こうのとり」は、日本独自の有人輸送機の開発につながる存在だ。独自に宇宙開発を進める中国も念頭に戦略を練る必要がある。

(5月15日付社説)