欧州との連携強化を進めよ


 安倍晋三首相は北大西洋条約機構(NATO)本部で演説し「中国の対外姿勢、軍事動向は日本を含む国際社会の懸念事項だ」と名指しで批判した。また、首相が意欲を示す集団的自衛権の行使容認について「世界の平和と安定のために日本がどのような貢献をすべきか、政府として方針を示したい」と理解を求めた。

 首相が対中関係を軸に日本の外交姿勢を明らかにして欧州との連携強化に乗り出した意義は大きい。

 首相が中国の脅威強調

 欧州諸国は日本と同じく自由と民主主義を共有する。だが、両者の間には中国との距離の違いから対中認識についてかなりのギャップがある。欧州は中国を巨大市場として見る傾向が強く、その脅威に対する警戒感は乏しい。

 これまでは欧州外交で日本は中国に立ち遅れの観があった。中国の習近平国家主席は3月の欧州訪問で、日本の「軍国主義的傾向」を強調するなど一方的に反日宣伝活動を展開した。その点、首相が今度の演説で「中国の軍事費は10年間で4倍に増えている。さらに、増加は内容が明らかにされない不透明な形で行われている」と具体的な数字を挙げて批判したのは、反日宣伝への反論として極めて効果的だと評価されよう。

 その上でNATO加盟国に対し、武器や機微な汎用品の厳重な輸出管理を強く求めたのは適切だった。

 首相の演説で評価すべきいま一つの点は、中国の脅威をグローバルなものとしてとらえるべきだと訴えたことだ。首相は沖縄県・尖閣諸島周辺での領海侵入や東シナ海での防空識別圏設定など、欧州諸国では関心の低い最近の中国の挑発的行動を明らかにして「東シナ海や南シナ海では力による一方的な現状変更の試みが頻発している」と強調した。このような動きは戦後秩序と平和への挑戦と理解すべきであり、NATO諸国も見逃せないはずである。

 その点で首相が欧州の目下の最大の関心事であるウクライナ情勢について「力による現状変更は許してならない」と述べたのは適切であった。同じルールは拡張主義的傾向を強めている中国にも適用できるからだ。

 首相は今回、ドイツ、英国、ポルトガル、スペイン、フランス、ベルギーを歴訪したが、わが国の課題の一つは対中外交での欧州との連携である。その大前提は対中認識の一致である。

 まず、中国を国際秩序構築の参画者として導いていくという共通の方針が必要である。アジアから遠く離れた欧州にとって、中国の脅威といっても切迫感はない。だが、中国の軍事力増強と拡張主義をこのまま許しておけば、世界の平和を脅かすことは確実である。

 防衛装備品の共同開発を

 日欧間には防衛装備品の開発や海洋での自由航行を守る海上安全保障など安全保障面で協力できる分野がある。さらに外交面でも英国とフランスが国連安全保障理事会の常任理事国であることを考えると、両国を味方に付けることは大きなプラスだと言えよう。日欧連携強化は日本外交の課題だ。

(5月9日付社説)