夏の電力の安定供給への取り組み強化を


 原発再稼働の見通しが立たない中、特に原発依存度の高い関西電力や九州電力で、今夏の電力需給が綱渡りの状態になりそうだ。

 一昨年、昨年もほとんどの原発が停止していたが、夏を乗り切ることができた。だが、老朽化した火力発電所のトラブルで大規模停電が発生する可能性が消えたわけではない。政府や電力業界は電力の安定供給への取り組みを強化すべきだ。

 関電や九電は綱渡り

 経済産業省の今夏の電力需給見通しによれば、電力大手9社で、需要に対する供給余力を示す予備率は安定供給に最低限必要とされる3%を確保する。しかし関電や九電は、電気の周波数が異なる東京電力から計58万㌔㍗を融通されることでかろうじて3%に達する。これがなければ、8月は関電が1・8%、九電が1・3%と3%を割り込む状況だ。

 通常は東日本同士、西日本同士で融通し合う。しかし、九電などに電力を販売する電源開発(Jパワー)の松浦火力発電所2号機(長崎県)が、定期検査中の事故で今夏中の再稼働が難しくなったため、東日本の電力会社から融通を受けることになった。安定供給のためには今後、東日本と西日本の間の変換設備の増強が急がれよう。

 昨年は関西電力大飯原発3、4号機(福井県)が運転していたが、今年は東電福島第1原発事故後で初めて、全原発が停止した状態で夏場を迎える可能性が高い。そうなれば、今夏は最大供給電力の8割を火力発電に依存することになる。現在でも老朽機のフル稼働や定期検査の繰り延べなどが続いており、不測の事故が起きる恐れがある。

 政府は今月中に今夏の節電対策を決める予定だ。数値目標を伴う節電要請を2年連続で回避できるかが焦点になる。

 電力需給の逼迫(ひっぱく)を避けるためには節電せざるを得ないが、企業の負担は大きい。節電に協力するための自家発電設備は燃料費が電気代よりも高く、数値目標が設定されれば業績が悪化しかねない。

 また夏の熱中症対策には冷房の十分な活用が必要だが、高齢者が遠慮しないかも心配だ。数値目標に関しては慎重な検討を求めたい。

 安価で安定的な電力供給のためには、やはり原発の再稼働が欠かせない。これまでに電力8社が、10原発計17基の安全審査を原子力規制委員会に申請している。

 規制委は3月、九電川内原発1、2号機(鹿児島県)の審査を優先的に進めることを決めた。早ければ6月末にも合格するとみられているが、地元の同意を得る必要もあり、再稼働の見通しは立っていない。

 原発再稼働へ指導力を

 原発停止で火力発電用の液化天然ガス(LNG)など燃料輸入が膨らみ、貿易赤字拡大の要因の一つとなっている。燃料費の増加で電気料金の値上げも続いている。

 このまま原発停止が続けば、夏の電力需給の不安定な状況を解消できないだけでなく、景気の足を引っ張ることにもなる。安倍晋三首相は再稼働実現に向けて指導力を発揮すべきだ。