混合診療拡大は患者の立場で検討進めよ


 政府は公的医療保険が適用される保険診療と保険外の自由診療を併用する「混合診療」の拡大に向け検討を進めている。

 適正な拡大は必要だが、行き過ぎれば患者の利益を損なうことにもなりかねない。患者の立場に立った検討が求められる。

 一部を除き原則禁止

 厚生労働省は一部の医療を除いて、混合診療を原則禁止している。解禁すれば、安全性や有効性が確認されていない医療が行われたり、患者の負担が不当に拡大したりする恐れがあるためだ。

 保険診療と自由診療を併用した場合、本来なら保険が適用される部分も含め、費用は全額自己負担となる。このため、保険対象外の治療法を試してみたい難病患者からは不満の声が上がっている。

 政府の規制改革会議は3月、患者が医師と合意した治療については混合診療を認める「選択療養制度」(仮称)を提案した。患者の経済的負担を軽減するとともに、治療の選択肢を広げる狙いだ。

 しかし、この案には懸念が残る。医師と患者では医療に関する知識の量に大きな差があり、患者が有効性や安全性を欠く治療を押し付けられることも考えられる。田村憲久厚生労働相は「安全というものは何としても担保しなければならない」と述べ、慎重な見方を示した。

 そこで規制改革会議は、学術誌に複数の論文掲載がない医療や、代替できる保険診療を受診していないケース、海外で未承認の治療などについて混合診療の対象から除外するよう政府に求める提言をまとめた。患者を守るため、一定の歯止めが必要なのは当然だ。

 政府は1984年、一部の高度先進医療に混合診療を認める「特定療養費制度」を導入。2006年には、有効性が確かめられた先進医療などの実質的な混合診療を認める「保険外併用療養費制度」を始めた。

 しかし混合診療を無制限に拡大した場合、高所得者しか先進医療を受けられなくなる恐れもある。これは、安い医療費で高度な治療を提供するという国民皆保険制度の趣旨に反する。混合診療は、保険が将来適用される可能性が高い医療に限り認められているということも忘れてはならない。

 政府は混合診療拡大を経済成長につなげたい考えだ。だが、安全が優先されるべきであることは言うまでもない。安全に関わる規制の見直しは慎重に検討する必要がある。

 最高裁は11年10月、混合診療の禁止は違法として、がん患者の男性が国に保険給付を求めた訴訟で、禁止を適法とする判決を下した。ただ、裁判官の一人は「医療技術の有効性の検証が適正、迅速に行われることが制度にとって肝要だ」と補足意見で述べている。

 保険適用の迅速化を

 他の先進国で広く使われているにもかかわらず、日本では保険適用されていない抗がん剤などもある。

 こうした治療法や医薬品は、なるべく早く混合診療の対象として承認すべきだ。さらに保険適用の迅速化に努めることも欠かせない。

(5月2日付社説)