韓国客船沈没、支援も受け入れ救出に全力を


 韓国南西部の珍島沖で起きた客船沈没事故で、乗客の適切な避難措置を取らず、船から脱出したなどとして、船長と女性3等航海士、操舵手の3人が逮捕された。死者・行方不明者計約300人の大惨事を招いた責任は重い。

 急旋回でバランス崩す

 船内には約270人の安否不明者の多くが残っているとみられる。在韓日本大使館によると、不明者の中には日本人の母親を持つ韓国籍の女子高校生もいる。現場では懸命の救出作業が続いている。一人でも多くの人を救ってほしい。

 安倍晋三首相は韓国の朴槿恵大統領に「わが国として必要な支援を行う用意がある」とのメッセージを送っている。一刻も早い救出のため、必要であれば日本への支援要請も検討してもらいたい。

 客船は修学旅行中の高校生らを乗せ、仁川から済州島に向かっていた。沈没原因をめぐっては、急旋回で積載貨物が片寄ったため、バランスを崩したとの見方が強い。

 事故当時は、約5カ月前に入社したばかりの3等航海士が船長に代わって操船していた。急旋回の理由は不明だが、3等航海士がこの海域を操船するのは初めてで、経験の浅さが事故につながったとみられる。

 船長は操舵室を離れ、休憩を取っていたという。船長以外が操船することは規定違反ではないが、事故海域は潮の流れが速いことで知られ、十分な注意を要する。船長が直接指揮すべきではなかったのか。

 さらに不可解なのは、事故後に船内放送で客室での待機を乗客に命じたことだ。船が傾き始めてから沈没までに2時間以上が経過しており、適切な避難指示が出されていれば、これほど多くの乗客が置き去りにされることはなかったはずだ。46隻あった救命ボートも1~2隻しか使われなかったという。

 一方、船長は乗員に避難を指示し、自身も救助に来た船で脱出した。乗客の安全確保の義務を怠ったことは、到底許されるものではない。

 船は1994年に長崎県内の造船所で建造され、鹿児島-沖縄航路などで就航後、2012年に韓国企業に売却された。この後、経営効率を高めるために上部に船室が増設され、傾きからの復元力が落ちたとの指摘がある。

 客船が車両を過積載していた可能性や、安定性を維持するタンクから排水した疑惑なども浮上している。安全軽視の姿勢があったのではないか。

 このような大惨事を二度と引き起こしてはならない。再発防止に向け、逮捕された3人をはじめとする関係者は、事故の原因究明に全面的に協力しなければならない。

 「安全最優先」の徹底を

 日本でも改めて安全点検を徹底する必要がある。事故を受け、国土交通省は国内の客船会社約450社に対し、航路の安全性や救命設備の備え付け、非常時の脱出手順などの確認を求めた。

 船舶に限らず、航空や鉄道、バスなどの運行に携わる人たちは「安全最優先」を肝に銘じ、事故防止に努めてほしい。

(4月20付社説)