地下水放出は汚染水問題解決への一歩だ


 東京電力が福島第1原発の汚染水増加対策の一環として、汚染前の地下水を海に放出する「地下水バイパス計画」の実施を、福島県漁業協同組合連合会が容認した。

1日に100㌧減少

 福島第1原発では、原子炉建屋に流入した地下水が溶け落ちた核燃料を冷やした水と混じり、汚染水が1日400㌧ずつ増えている。計画は地下水が汚染される前に上流の山側に設けた井戸12カ所でくみ上げて海に流すもので、汚染水を1日最大100㌧程度減らせるとみられている。

 計画に対しては当初、風評被害を懸念する漁業者が反発していた。今回容認したのは、廃炉作業の安定化のためには汚染水の増加抑制が必要だとの認識が広がったためだろう。

 汚染水を保管するタンクは既に1000基を超えている。このままでは、不測の事態が生じて高濃度の汚染水が大量に海に流出する恐れもある。バイパス計画の実施は漁業を守るためにも欠かせない。これで問題の解決に向けて一歩前進したと言えよう。

 しかし、それでも汚染水が毎日増え続けることに変わりはない。対策として、政府と東電は土壌を凍らせた壁で原子炉建屋を囲む案を採用している。しかし、壁の完成は2015年度の予定だ。

 汚染水から放射性物質を吸着して大幅に減らす装置「ALPS(アルプス)」は対策の「切り札」とされているが、トラブルが後を絶たず試運転の状態が続いている。

 今月に入ってからも、3系統のうちの1系統で処理が不十分との結果が出たため、3系統全ての運転を停止するトラブルが生じた。東電は来月以降のアルプスの本格運転を目指しているが、具体的な予定は決まっていない。

 アルプスは放射性トリチウムを吸着することができず、処理後の汚染水もタンクで保管されている。しかし、この水は濃度を薄めた上で海に放出することができるはずだ。それには漁業者や国際社会の理解が欠かせない。政府や東電には丁寧な説明が求められよう。

 漁業者の東電に対する不信感の強さは、今回の地下水放出をめぐる議論でも示された。先月はタンクから約100㌧の高濃度汚染水が流出した。東電が信頼を回復するには、安全管理の強化が欠かせない。

 県漁連は地下水放出の条件として、放射能検査の結果を第三者機関がチェックすることや、「セシウム134で1㍑当たり1ベクレル未満」など東電が定めた基準の厳守、風評被害が出た場合の補償などを挙げた。特に風評被害に関して、政府と東電は十分な配慮と対策が必要だ。

調査ロボの性能向上も

 汚染水問題を抜本的に解決するには、燃料が溶けた1~3号機格納容器の破損箇所を特定し、補修して冷却水漏れを防がなければならない。だが、極めて高い放射線量下での作業は難しく、見通しは立っていない。

 原子炉内部を調べるためのロボットの性能を向上させるなど、抜本解決に向けた取り組みも必要だ。

(3月29日付社説)