「STAP」問題、徹底的な真相究明が必要だ


 理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーらが英科学誌ネイチャーに発表した新万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の論文に疑義が生じている問題で、理研は調査委員会の中間報告を公表し、データの取り扱いが不適切であったことを認め謝罪した。

 理研の管理体制、小保方氏らの科学者としての資質を厳しく問うべきだ。

責任者不在の“論文”

 外部の専門家を交えた調査委の中間報告では、論文の一部に改竄(かいざん)や流用を認めたが、研究不正に当たるかどうかは継続調査が必要として判断を先送りした。会見した理研発生・再生科学総合研究センターの竹市雅俊センター長によると、論文の撤回を小保方氏らに促し、共同著者1人を除き同意している。

 竹市氏らが特に深刻に受け止めているのは、STAP細胞が様々な細胞に変化できる「多能性」を確かめた実験結果の4枚の画像に流用があった点だ。

 疑惑が報じられた当初は論文の本旨に影響はないという見解だったが、STAP細胞の存在に疑念を持たざるを得ない状況となった。徹底的な真相究明が必要だ。

 小保方氏は理研の聞き取りで、論文の画像の加工を認め「やってはいけないという認識がなかった」と話したという。「一人の未熟な研究者が膨大なデータを集積し、極めてずさんな取り扱いをして、責任感に乏しかった」(野依良治理研理事長)というべきだ。

 その上で、今回の研究が4チーム共同で行われたため、論文作成の最終責任の所在があいまいだったことが挙げられる。そのため、確認作業を怠った。科学研究は専門化、細分化が極度に進み、特に生命科学分野では顕著で共同研究には注意する必要がある。

 理研は伝統を持つわが国屈指の科学研究施設であり、かつて仁科芳雄博士らの物理学研究で大きな成果を生み出した。そのため天才一人の頭脳を尊重し、研究の自由に意義を認める長所もある。実績のある人材を広く国内外から集めることを旨とし、主に公募によって選考されるが、小保方氏もその一人だ。しかし、共同研究が主流となった今日、その選考方法について再考すべきだ。

 2002年ノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一さんは当時、日本の研究方法について「良い所はチームワーク。今回も5人の共同研究でうまくいった。それがお家芸です」と語り、仲間へ感謝の気持ちを表した。研究機関と違って企業の場合、企業目的を共有した連帯感が生まれる。基礎研究ではないが、小惑星探査機「はやぶさ」の成功でも仲間の協力が功を奏した。こうした日本の“お家芸”についても踏み込んだ考察が重要だ。

新時代の倫理教育を

 従来、科学者としての倫理は切磋琢磨(せっさたくま)の中で自然に身に付くものと考えられてきた。しかし今日の複雑な社会の中で、科学の役割や研究の在り方が問われている。こうしたことを踏まえた科学者への倫理教育が求められている。今後の調査とともに理研の改革を注視したい。

(3月16日付社説)