アジア版NATO、平和への貢献で実績重ねよ


 自民党の石破茂幹事長が「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」創設構想を表明した。この構想には安倍晋三首相も賛同していると伝えられる。

 冷戦後もNATOは、欧州国際社会の安全確保に有益な役割を果たしている。アジア版NATOは軍備増強を進める中国への抑止力として、アジアでも米国を中心に東南アジアなどと連携した安全保障体制の構築が必要だとの考えに基づくものだ。

構想実現には課題も

 石破幹事長は「中国の国防予算が伸び、米国の力が弱まる。この地域では中国とのバランスを取らねばならない」と述べ、アジア版NATOに言及した。東シナ海や南シナ海において力による現状変更を試みる中国の脅威は高まっている。関係国が連携して抑止力を強化する必要がある。

 もっとも、構想実現にはさまざまな課題があるのも確かだ。社会組織は国内、国際社会を問わず、その背景となる社会の所与の条件に制限を受ける。冷戦下で、米国が欧州ではNATOという多国間同盟方式を採用したが、アジアにおいては、日本、中華民国、韓国、フィリピンなどと2国間条約を締結して対応した。

 一方のソ連も、欧州ではワルシャワ条約機構(WTO)という多国間同盟をつくった。しかし、アジアでは中国、北朝鮮などと2国間条約を結んだ。

 これは決して偶然ではなく、地域の特性を考慮した上での結果である。欧州の場合は、トルコ以外はキリスト教文化圏の諸国であり、人種的にはそんなに違わない。英国などを除き大陸に存在しており、神聖ローマ帝国の下で、欧州は一つだったことがある。また、諸国間の経済格差はあるものの、アジア地域に比べると小さい。

 これに対してアジアの場合、種々の宗教が存在し、文化も相違する。第2次世界大戦前まで、ほとんどの国は欧米列強の植民地であり、経済発展も最近まで立ち遅れていた。経済格差も非常に大きい。それに地理的には島国が多い。岡倉天心は「アジアは一つ」と言ったが、現実には一つであったことはない。

 同盟条約の本質は軍事的な相互協力である。それ故、同盟の相手国と自国の運命を共にするという性格を持っている。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラムを基盤に、多国間同盟が構想されたことがある。これが具体化しなかったのは、地域の特性のためだ。アジア版NATO創設には、こうした課題を克服するための取り組みが求められる。

 構想の背景には、世界の平和実現に積極的に関与していく安倍政権の「積極的平和主義」がある。平和への貢献で実績を積み重ね、創設につなげたい。また、創設には集団的自衛権の行使容認が前提となる。自民党は憲法解釈の変更に向け、変更に慎重な公明党との調整を進めなければならない。

 東南アジアと関係強化を

 日本が中国への抑止力を高めるには、自衛態勢の強化を中心とし、これを日米安保条約で補完する体制を取るとともに、東南アジア諸国との一層の関係強化に努める必要がある。

(3月14日付社説)