焦点:日本企業の海外M&A、業種の幅広げ急増

7月9日、日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が過去最高ペースで増えている。写真は2006年1月、東京・新宿で撮影(2008年 ロイター) [拡大]
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江本 恵美記者
【東京 9日 ロイター】 日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が過去最高ペースで増えている。日本の人口減少と消費低迷を背景に国内市場が頭打ちになる中、医薬品メーカーに代表される国際競争力の維持に積極的な企業が成長の活路を海外に求める動きが目立っている。
この増加基調を支える主役が、ファンドから事業会社に交代しているのも特徴の1つだ。サブプライム(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題を契機にした米欧での信用収縮がファンド勢の資金調達力を低下させ、日本のM&A市場の構造変化に拍車をかけている。
<医薬で海外大型買収相次ぐ>
「ここ数年でみられないほどのイン─アウト案件がパイプラインにあり、うまく行けば相当すごい年になるだろう」──。
JPモルガン証券のジョン尾関・投資銀行本部マネジングディレクターは、2008年の日本企業による海外企業買収(イン─アウト)案件の見通しをこう展望する。
武田薬品工業<4502.T>の米ミレニアム・ファーマシューティカルズの買収(約8890億円)や、第一三共<4568.T>によるインドのランバクシー・ラボラトリーズ<RANB.BO>の買収(約4000億円)合意など、今年6月末までに公表した日本企業による海外企業の買収は、医薬の大型案件がけん引し、上半期ベースでは過去最高になった。
武田は数年後に迫る主力薬品の特許切れを前に、将来の売上に寄与する新商品の獲得を急ぎ、第一三共は、後発医薬品(ジェネリック医薬品)分野への参入や買収したランバクシーが強みを発揮する北米市場の開拓などを見据えた戦略的な買収だ。
<08年前半の実績、07年に迫る勢い>
08年1─6月期に日本企業がかかわったM&Aは、金額ベースで前年同期比22%減少の約6兆8000億円(641億ドル)。対照的に日本企業が海外企業を買うイン─アウト(IN─OUT)の案件は約2兆5600億円(242億ドル)となり、わずか6カ月間で2007年1─12月期の実績(約2兆6100億円)にほぼ並んだ。
業種別では、医薬セクターの金額・件数がともに増えたことが大きいが、それだけではない。食品やハイテク、情報・通信などのセクターで金額・件数とも増加。素材セクターは件数が減少したものの、金額は75%増加しており、広範囲な業種で海外企業の買収が盛んになっていることが分かる。野村証券の山道裕己専務(インベストメントバンキング部門担当)は「さまざまな業種で(成長著しい海外での買収に踏み切る企業が)今後も増えるだろう」と話す。
日本企業が海外企業の買収に乗り出す理由の1つは、日本の低成長に対し、新興市場を中心とする海外市場の高成長がある。販路拡大を目指し、有望なマーケットにアクセスするためM&Aを決断するケースも目立つ。企業間競争がグローバル化する中で「海外の競合他社と戦うために商品や人材などの経営資源を獲得しにいくため」(GCAサヴィアングループ<2174.T>の渡辺章博取締役)という理由もある。
<サブプライム発端の信用収縮、事業会社に追い風>
日本企業が抱えるこうした構造的な理由に加え、最近になってイン─アウト案件の成立が急増している要因として、サブプライム問題に端を発した信用収縮の影響がある。巨額損失を計上した欧米の金融機関はファンドへの貸し出しを事実上ストップ。その結果「ファンドは金融機関から十分な買収資金を借り入れることができず、売り案件が出てきても高い価格を提示できなくなっている」と多くのMA担当者が指摘する。
野村証券の山道氏は「最近はファンドが最初から入札してこない案件も多く見るようになった」という。このため「ストラテジックなバイヤー(事業会社)が出す値段でも十分に競争力がある。実際にM&Aをやろうとしている事業会社にとって千載一遇のチャンスだ」(同)と断言する。事実、プライベート・エクイティ・ファンドが関与するM&Aは、件数、金額ともに減少している。08年1─6月期、日本では66億ドル(約7021億円)と前年同期比で17%減少した。
JPモルガンの尾関氏は「ファンドなどファイナンシャル・スポンサーの動きが活発だったころは、日本企業がファンドと張り合ってディールに勝つことがなかった」という。しかし、今は「多くのケースでファンドにファイナンスがつかないため、ストラテジックなバイヤー(事業会社)には有利な環境。成立するイン―アウトの案件も、ほとんどすべての業種で増えるだろう」と、活発な海外案件の増加を予想している。
*M&Aの金額はトムソン・ロイターのドル建ての数字を1ドル=106円で換算。
(ロイターニュース 江本 恵美記者;編集 田巻 一彦)
2008/07/10 7:23