投資単位引き下げで個人株主増加、経営の監視役に

7月2日、単元株のくくり直しや株式分割などの投資単位引き下げで最近の株式市場では、個人株主の増加が目立ってきた。写真は昨年6月、都内で撮影した株価ボードを見る男性(2007年 ロイター) [拡大]
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【東京 2日 ロイター】 単元株のくくり直しや株式分割などの投資単位引き下げで最近の株式市場では、個人株主の増加が目立ってきた。東証を初め各取引所が個人投資家の投資意欲を高める施策として、少額でも株式を購入しやすくするために投資単位の引き下げを上場企業に働きかけてきた結果とみられる。
所期の目的の取引活発化だけでなく株主数が急増するケースが増えたことで、個人株主の存在感が大きくなり、経営の監視役を作るきっかけになったとの受けとめ方が広がっている。
6月末まで東証の適時開示情報閲覧サービスにおいて「投資単位の引き下げに関する考え方及び方針等について」とのリリースを開示する企業が多かった。東証では「株券の投資単位が5万円以上50万円未満となるよう、その水準への移行・維持に努めるものとする」といった規則があり、最近の投資単位が50万円以上である場合には、事業年度経過後3カ月以内に、引き下げに関する方針を開示する義務がある。
東証によると、この規則には強制力はないものの、対応が不十分な企業に対して引き下げの勧告を行い、それでも放置した場合は社名を公表するという。過去に10社程度に対して勧告を行った。
全国の証券取引所が投資単位の引き下げ促進に努めたここ数年で、1000株を100株にするといった単元株のくくり直しや、株式分割を実施する企業が増加。東証の調査で直近の2006年度に全上場企業のうち、くくり直しを実行した企業は71社、1対1.5以上の大幅株式分割を実施した企業は143社に上った。
全国5取引所がまとめた株式分布調査で、2007年度の個人株主数は前年度比120万人増の3928万人と11年連続で過去最高を更新したが、その理由の1つして「投資単位引き下げを実施した企業が、個人株主数の大幅な増加に貢献したことも挙げられる」(東証・情報サービス部長の白橋弘安氏)という。
実際、くくり直しを行った企業71社のうち65社の個人投資家数が増加した。その中で06年3月末の258人から07年3月末の2709人へと1年間で10倍以上増えたクロップス<9428.NG>のようなケースもある。合併や相場の仕手化などの特殊なケースを除くと、1年間でCKD<6407.T>が3.78倍、オーナンバ<5816.OS>が3.51倍、ラサ商事<3023.T>が3.39倍、日本写真印刷<7915.T>が2.94倍に増加させたのが目を引く。
これら企業の間では「東証からの要請もあり、くくり直しを実施した。個人株主の増加はその効果が大きい」(日本写真印刷・広報部長の谷口哲也氏)、「増配の効果もあるが一般の個人株主が増えたのは引き下げの影響」(CKD・広報担当者)などの分析があった。
クロップスのIR担当者は「増えた大半が100株だけ保有する株主。投資単位の引き下げと100株保有の株主に対し、地元東海地区の名産品を株主優待制度で送付したのが大きい」としたうえで「上場時に400人前後いた株主が06年3月期には200人台まで激減し、危機感を感じて株主を増やす工夫をした」と指摘。ラサ商事では「安定株主が欲しかったことと、1部上場を考えていたため、投資単位の引き下げと株主優待制度を新設。狙い通りに株主を増やすことができた」(広報担当者)とするなど、株主作りを積極的に進めた結果との声も出ている。
個人株主が増加した企業は、比例して株主総会の出席者も増加する傾向があるようだ。例えば昨年8月のくくり直し後に、個人株主数が2.51倍に増えたコマツ<6301.T>は、総会出席者が前年の532人から1214人、昨年6月に1対2株式分割を実施し個人株主数が3.52倍となったホンダ<7267.T>は630人から1549人に増加した。
くくり直しで1.59倍に増え、総会出席者が207人から430人に倍増した住友商事<8053.T>では「投資単位を引き下げた効果が、株主の増加につながったようだ。総会出席者についてはコンサートを開催したことも増えた理由として考えられる」(広報担当者)と指摘する。
1対3の株式分割の実施を背景に、個人株主が2.5倍に増加した大阪証券取引所<8697.OJ>では「総会出席者は昨年の7人から132人に増加。単に株主になるだけではなく経営に対する関心の高まりをと受け止めている」(広報担当者)と自ら模範を示した格好となった。
ただ、個人の株主は増えたものの、いきなりアクティビストになる様子ではない。企業関係者の間からは「総会の出席者は3倍に増えたが、個人株主からの質問は出なかった」(クロップス)、「質問数は前年の10問から11問に増えただけ」(コマツ)などの声が出ており、質問者が増えたケースでも「業績など基本的な質問に終始した」(ラサ商事)といったケースが大半だ。
それでも個人株主は海外ファンド筋が株主提案権を行使し、それが委任状闘争に発展した際、その1人1人が貴重な1票になる。ファァンド筋の株主提案が目立った今回の総会シーズンでは、個人の存在感の大きさが確認された格好となった。
そうした点を踏まえ、ある欧州系投資顧問の運用担当者は「個人株主も集まれば大きな力になりうる。投資単位の引き下げで増加が顕著になったわけだが、単に株主数を増やすだけではなく、取引所の一連の施策は、経営の監視役を作る副産物をもたらした」と指摘する。
また、あるヘッジファンドの運用担当者は「企業の本音を言えば、株主で増やしたいのは個人ではなく、復活の兆しがみえる持ち合いの方だろう。(個人株主は)安定株主を期待しても長期保有するとは限らないうえ、株主価値の向上を示さなければならなくなり、難しい存在だ」としたうえで「投資単位の引き下げは小口商いが活発化し流動性が高まるが、運用の視点からすれば、これは需給が読みにくくなる点で歓迎できるとは言えない」と明かす。
東証では、今後も投資単位の引き下げを促して商いの活性化を目指す考えだが、そうした中でも頑なに引き下げを行わない企業も少なくない。
とりわけ業種別では不動産に多く、三井不動産<8801.T>、三菱地所<8802.T>、住友不動産<8830.T>の大手3社は6月下旬に相次いで、当面は引き下げを行わないことを明らかにした。
これについて住友不動産の広報担当者は「検討はしているが、現状では流動性を確保している。株主数も問題はないので行う必要はない。現状では引き下げにはコストもかかるので、その問題がなくなる株券が電子化される時に行う可能性もある」と述べている。
(ロイター日本語ニュース 水野文也)
2007/07/02 16:43