ロシア・モスクワ在住
大川佳宏
感銘与える「昭和天皇」
ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督が昭和天皇を描いた映画「太陽」を見に行った。娯楽映画ではなく、古い映画館でのひっそりとした上映だが、それでも百五十人ほど入るホールは満員だった。
終戦直前の皇居地下の防空壕。昭和天皇がお一人で食事をされているシーンから映画は始まる。フィルムは光量不足で、重苦しい雰囲気が続く。本土決戦を主張する陸軍大臣に昭和天皇が「よい条件で国民に平和をもたらしたい」と降伏の意向を示される御前会議などを経て、マッカーサーとの会見、そして「人間宣言」へと続く過程が描写されていく。
主演のイッセー尾形らの演技は秀逸で、映画としての質は高い。しかし、脚本関係ではソ連の対日参戦を正当化するかのようなシーンもあり、史実との関係や歴史観をめぐっては、批判も出るだろう。
でも、隣に座っていたロシア科学アカデミーの社会学者アンナ・グーディマさん(40)は、こんな感想を語ってくれた。
「今まで(ロシアで)知られていた(昭和)天皇像とは全く違う、新たな天皇像に深い感銘を受けた。どの国でも戦争に負けそうになれば指導者は国民をほったらかして逃げていくものだが、天皇は逆に、国民のために自らを犠牲にすることをいとわなかった」
それが多くのロシア人に伝わったならば、この映画には大きな価値がある。
(サンデー掲載:5月22日)