ロシア・モスクワ在住
中村 晃
春の訪れ祝う伝統行事
今年もロシアでは春の訪れを祝う「マースレニッツァ」を迎えた。その祭りに付きものなのが「ブリニー」と呼ばれるロシア式クレープで、食卓の中心に十〜二十センチの高さに積み上げられる。そして友人を呼んでもてなし、ともに祝うのが恒例行事となっている。中に包み込む物は家庭によってまちまちで、主にチーズや練乳、ジャムなど素朴なものが一般的だ。
このロシア独自の伝統行事に、民族性を非常に感じている。共産政権の時に各家庭にとりつけられたモスクワの室内暖房の設備は、四月までの寒さの厳しい気候にもかかわらず、室内温度を二五度ぐらいの適温に保ち、非常に心地よい環境を与えてくれる。だから冬でも室内ではロシア人は皆、半袖姿だったりする。
そんな現代からすると、中世以前のロシアの冬は過酷極まりないものだった。この春祭りは、待ちに待った春を祝い希望をもたらす、古くからの土着信仰に基づいた民族伝統行事なのである。
マースレニッツァの後、ロシア正教の信者たちはキリスト復活祭までの七週間、特別な断食期間に入る。とはいっても、お茶を飲んだり肉類などを断った簡単な食事はしている。近年、旧ソ連圏の欧米化が進む一方で、不思議とそのような宗教や民族伝統を大切にする若者たちも増えてきた。それはロシアの古き良き伝統を尊重する表れなのかもしれない。
(サンデー掲載:4月10日)