ロシア・モスクワ在住
宮川貴之
美しい心持つロシア人
ロシア人の心の美しさに、はっとさせられることが度々ある。
ある時、電車の中で年配の女性が物すごい剣幕で目の前に座っている若い男性たちを叱責している。「あんたたちはそこに立っているお腹の大きい若い女が見えないのか?」。ふと見ると、確かに妊婦がひとりつり革につかまっていたのである。座っていた二人の男たちは、ひとりはぶつぶつ文句を言いながら仕方なく立ち上がり、もうひとりは「おお! すみません。気が付きませんでした」と女性にわびながら席を譲った。当の妊婦は「いいえ、大丈夫ですよ」と笑顔で答えた。
はた目には無愛想なロシア人が多数だが、友人や知人たちに接してみると、フレンドリーで冗談好き、親切心も旺盛で、そして何よりも純粋な心をもっている。「ズドゥラーストゥビーチェ!(こんにちは)」という言葉をロシア人が発するとき、「お体は大丈夫ですか?」「健康ですか?」というやさしい心があふれ、「ダスビダーニャ(さようなら)」のあいさつには「また会いましょうね」という意味が込められ、その優しい響きに心が和むのである。
周知のとおりロシア人は背が高く、容姿端麗この上ない。しかし、何よりも人と接するときの心の素朴さや美しさは、先進国と言われる日本で暮らした者に、忘れかけていた人間の姿をやんわりと教えてくれる。
(サンデー掲載:3月6日)