南ア共和国・ヨハネスブルク在住
長野康彦
神さまのような老紳士
先日、健康のためジム通いをしている妻を迎えに行く途中、車が故障した。走行中、エンジンが突然ストップ。路肩に車を寄せ始動を何度も試みるが、スターターが空回りするだけでエンジンは一向にかからない。
さて、どうしたものか、途方に暮れていると、高級SUV車がスーッと横に止まり、「大丈夫かい?」と老齢の白人紳士が声をかけてきた。故障して立ち往生していると告げると、「近くの修理工場まで乗せていってあげる」という。実は妻を迎えに行く途中なんだ、と話すと、何も言わず携帯電話を差し出してくる。ただありがたい気持ちで妻の携帯に電話をかけて状況を説明し、まずは修理工場に行って牽引車をアレンジすることにした。その後、方向が同じだったこともあり、妻の待つジムまで乗せてもらうことに。しまいには家の前まで送ってくれた。
こちらでは故障を装って車を路肩に止め、親切心から停車し助けを申し出るドライバーを、金品強奪目的に襲う事件が後を絶たない。それを知っているが故に、どこの誰とも分からぬ東洋人をよくも助けてくれたものだとつくづく感心する。
「あなたの顔を見て、神の顔を見るようです」と心の中で思いつつ、別れ際、丁重に礼を述べた。そして何事もなかったかのように車は走り去っていった。もう会うことはないかもしれない老紳士。神の限りない祝福があらんことを祈った。
(サンデー掲載:2月13日)