エジプト・カイロ在住
鈴木眞吉
時を忘れて過ごす快適さ
エジプトには、心の奥底から時を忘れて過ごせる場所が何カ所かある。その最たるものはアスワンハイダムで有名なアスワン市で、ナイル川の川の流れに任せて、のんびりと帆掛け舟に乗る時かもしれない。周りはとても静かで、対話し合う声が、何物にも邪魔されずにそのまま伝わってくる。真っ青な空と真っ青な川、暖かい陽光に包まれて、緑一面の土手を見る時、心が和み、時のたつのを忘れてしまう。
しかも、帆掛け舟の船頭さんものんびりとして、話しかけることもせず、自然体に振る舞っている。周りは川と野原だけで、赤と白の色のレンガ造りのホテルが遠くに見えるだけだ。
これがまた、シーワ・オアシスに行ってみると、二千年前の昔に帰ったのではないかと思わされる。交通はロバだけで、ロバには少年たちが乗り、むちをあてながら干し草や荷物を運んでいる。陽光だけがさんさんと降り注ぎ、人がまばらなために静寂に満ちている。そんな中に、シーザーとクレオパトラが湯浴みをしたというクレオパトラ鉱泉がある。直径十メートル前後の円形の風呂だが、二人も静寂に満ちたこの地を殊のほか愛して長期滞在をしたのかもしれない。
カイロの喧騒を逃れてやってくる人々も、ここでは静かにして、のんびりと時を過ごしていく。時を忘れる快適さは一度味わうと、あまりにも心地よく、何度も味わいたくなる。