米国・ワシントン在住
立川直樹
中絶禁止めぐり熱い夏
「生まれる前であろうと後であろうと、殺人は殺人!」
米国を車で走っていると、こう書いたステッカーをよく見かける。人の生命は、受胎の瞬間から始まり、胎児も人間と考える「プロ・ライフ」(生命尊重派)のステッカーだ。
米国で妊娠中絶が合法となったのは一九七三年で、そう古いことではない。キリスト教の影響で、長い間、中絶は「胎児の殺人」と考えられてきたからだ。
その一方で、中絶は女性の選択に任せるべきだと考え、女性の中絶権を存続させようとする人々は「プロ・チョイス」と呼ばれる。プロ・ライフかプロ・チョイスかは、保守とリベラルを分けるテーマでもある。
両派がかたずを飲んで見守る法案がこのほど、議会下院を通過した。妊娠六カ月以降の妊娠後期に行われる「一部分娩式」中絶手術を禁止するものだ。クリントン前大統領は二度にわたり拒否権を発動、同様の法案を葬ってきたが、ブッシュ大統領は法案署名を表明している。下院はプロ・ライフが多い共和党が支配するので通過したが、上院はプロ・チョイスが多い民主党が支配しており、法案の行方は定かではない。
プロ・ライフにしてみれば、胎児も六カ月になれば人間で、殺人になる。プロ・チョイスは法案が成立すれば、これを突破口に女性の中絶権が脅かされる。両派にとって、今年はとくに熱い夏になっている。