11面 読書 2007/04/08 back

『トヨタとインドとモノづくり』

島田 卓著

トヨタ版「プロジェクトX」

 本書はインド通の元銀行マンが描いたトヨタ版「プロジェクトX」だ。トヨタは一九八〇年代にインド進出を果たしていたが、頓挫した。

 そのインドに再びトヨタは九七年、捲土(けんど)重来を果たすべく上陸を果たした。本書はさら地に工場を造る時から立ち会った生産部門の責任者宝田和彦氏、販売部門の責任者河端正彦氏の二人に焦点を当て、そのリーダーシップと仕事に懸ける情熱を伝えている。

 とりわけ興味を引くのは、工場の構想案で宝田氏が提示した「インドだから牛で引け」というキャッチフレーズだ。工場というところは、モノの運搬が重要な役割を担っている。その搬送作業に当たるのは、コンベアやフォークリフトなどさまざまな搬送装置が存在する。

 無論、その搬送装置の代わりに牛が活躍したわけではない。宝田氏の言いたかったのは「原理にまで立ち返って、ものごとを見直せ」ということだった。

 結局、トヨタのインド工場では、作業者である人が引いてモノを運ぶシステムに収めた。人件費の安いインドの特性を生かした人海戦術による作業を強行したのだ。金に任せて近代的な工場建設に走ったわけではなく、インドらしい特性を経営に組み入れた柔軟性が生かされたのだ。一方で日本で培われてきた「トヨタウェイ」が効力を発揮することもあった。「トヨタウェイ」とは、トヨタで伝承されてきた経営哲学や価値観など、社員と会社が共有する行動指針をいう。

 インドに進出した製造業では、インド人の素質や資質に悩まされるケースが続出しているが、「ちゃんと訓練すれば、ちゃんとした必要な人材になる」という信念を、どんな困難な状況下でもぶらさず持ち続けてきたトヨタ経営陣の確信こそは、同社のインド進出を成功に導いた最大の資産であった。

 本書は胸のすくような単なる成功物語としてだけでなく、異文化のインドでどうトヨタ方式が根付いていったのかビジネス文化論としても面白く読める。 池永達夫

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