10面 読書 2007/04/08 back

『感謝されない医者』

金田 正樹著

凍傷治療現場の人間模様綴る

 著者は外傷治療が専門の医師である。交通事故やスポーツ外傷の場合、治療して機能が回復すれば、患者から感謝される。ところが、何らかの理由で手足が切断されて、機能が失われると、医者への感謝の気持ちはわいてこない。医者も切断は嫌でたまらないのだ。

 医師になって三十五年になり、診てきた患者の数も膨大であるが、その中に凍傷患者がいた。診察した例は八百人以上。その四割、約三百人については外科的処置、つまり手足の指を切断してきたという。サブタイトルは「ある凍傷Dr.のモノローグ」である。

 凍傷は一般的な疾患ではない。診たことのない医者も多い。診察は皮膚科なのか、整形外科なのか、形成外科なのか、決まっていない。しかし、冬山登山や高所登山をする者にとっては、まれな疾患ではない。

 著者が凍傷を診察してきたのは、自身が登山家だったことが背景になっている。登山家の間で著者は有名で、患者は冬だけでなく、年間を通してやってくる。日本の登山家は世界中の高峰を登っているから、患者も絶えないのだ。

 本書は医師として、また登山家として、凍傷を治療してきた体験を綴(つづ)ったドキュメント。凍傷にかかった冒険家たちのドラマが描かれ、ユニークな人物伝ともなっている。忘れ得ぬ患者として挙げるのは、加藤保男、吉野寛、中島俊弥、木本哲、大場満郎、山野井泰史・妙子夫妻。

 手術が必要だと伝えると、落ち込む人が多く、病院を逃げ出してしまう例もあるほどだが、彼ら冒険家たちは挫折することなく、再起に向けて立ち上がっていった。

 登山家としての経験を生かし、富山県の文部省登山研修所で講師を務め、遭難救助の経験もある。一九九〇年のアフガン紛争では赤十字国際委員会(ICRC)の野戦病院に勤務。地雷で負傷した子供を治療してきて、人間の狂気と愚かさを痛感した。

 著者の生き方もまた、挑戦的冒険的だ。

増子耕一

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