休戦条件違反で武力行使再開は正当

独裁者にVXガスは悪夢


 「VXガス」は「サリン」と並んでオウム事件以来、日本人にもよく知られている猛毒の化学兵器である。米誌USニューズ&ワールド・リポート(2月23日号)によると、サダム・フセインは、イラクが湾岸戦争前に生産したVXガス四トン以上を処理したと主張しているが、国連特別(査察)委員会はそれを確認していない。英外務省はイラクが秘匿しているVXガスの量は地球上の全人間を殺害するに足る量だ、としている。
 このほか、イラクは、ほんのチリくらいの量を吸い込むだけで絶命するアンスラックス(炭疽菌)を培養、フェルメンターで醸造する工場を持っている。化学兵器VXガスも生物兵器アンスラックスも安く簡単に製造でき、「貧者の核兵器」とも呼ばれている。
 UNSCOM(国連大量破壊兵器破棄特別委員会)は七年にわたってこれら危険な大量破壊兵器およびその関連物件を捜索してきた。そして、3万8000個の化学兵器、48万リットルの化学薬品、48基のミサイル、6基のミサイル発射装置、30発の化学・生物兵器のためのミサイル弾頭、数百の化学兵器製造のための装置を発見破壊した(USAトゥデー)。
 だが、依然まだ多数が秘匿されたまま残っている。米英の情報機関は、イラクは過去において何年間も細菌・ガス兵器の生産工場計画を推進して来ており、もし国連査察が阻止されたら、イラクはすぐにも工場1つを再建でき、フェルメンターをうまく使って、生物戦争用のタネ株を生産するのに2、3時間もかからないだろう、という。
 イラクの独裁者サダム・フセインは1980年9月17日突如、隣国イランに侵略し自衛に立ち上がったイランの果敢な抵抗に遭って、1988年7月18日まで8年間にわたって中東の平和を破壊した。そして90年8月2日には今度は隣国クウェートに侵攻した。
 イラクのクウェート侵略併合の暴挙に直面して、国連安保理はイラクに対し決議660で撤退を要求したのを手初めに、決議661で経済制裁、決議678で対イラク期限付最後通牒(クウェート支援国に武力行使権限付与)で撤退を迫った。それでもイラクが聞かず侵略をやめなかったので、ついに91年1月17日から多国籍軍が国連の軍事的強制行動として侵略者イラクと戦った。湾岸戦争である。この軍事的強制行動によりクウェートの主権と領土保全は回復された。世界的集団安全保障機構国連は侵略を排除し平和の回復に成功したのである。
 安保理は91年4月3日、休戦条件の決議687を発し、侵略者イラクにその受諾を迫った。イラクは4月11日、国連事務総長と安保理にその受諾を通告して来た。この休戦条件により、対イラク軍事的強制行動参加国とイラクとの間に正式の休戦が成立した。この休戦条件のなかにはイラクの核・非核大量破壊兵器(射程150キロ以上のミサイルを含む)の破壊、将来にわたる不保持が規定され、それを確実ならしめるための国連特別(査察)委員会の主体的一方的広範な査察が規定されている。
 これは休戦条件に明確に規定されている事柄で、今さらイラクが国連査察に条件をつけたり拒んだりできる立場にはない。もし、この休戦条件の重要な一項が敗戦国によって履行されないなら、条約の重要な部分の侵犯であるから、相手国たる戦勝国は休戦をやめ軍事行動を再開できよう。新たな安保理決議がなくても、武力行使ができると言う米主張はこれまでの安保理決議の解釈としても成り立つが、この休戦条件への重大な違反に対する対抗措置としても国際法上是認されるのである。
 それに、危険な独裁者サダムの手に生物化学兵器を持たせてはならぬという国際政治上の重大な課題に照らしても、必要とあれば武力行使も正当と見られるべきである。
(現代国際政治経済研究所所長 入江通雅)