すき突いて脱出するも失敗


“拉致監禁”の連鎖(220)パート10
被害者の体験と目撃現場(6)
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監禁されたマンションの階段(左端)。舞さんは監禁された5階の部屋から脱出したが、階段の踊り場で父親らに押さえられた

 南京錠を開け、がちゃがちゃとチェーンをゆるめる音が耳に入った。母親が毎朝、決まった時間に階下へごみ袋を捨てに行っている。ところが、出て行ってドアを閉めたあと、玄関口からは何の音も聞こえてこなかった。父も弟も、南京錠をかけに行く気配がないのだ。

 母親はごみ袋をもってエレベーターで降りて、下の置き場にゴミ袋を置くと上がってきてドアを開けて室内に戻ってくる。何日間か耳をそばだてて様子をうかがい、玄関の鍵がかかっていないほんのわずかな時間があると判断した。「よし、このとき逃げよう」。

 いつものように母親がゴミ袋を捨てに出て行った。父親は台所で洗い物をしていたようで、その背中を見て、自分に気付いていないことを確認した。舞さんは、玄関を仕切るカーテンをくぐり、裸足のまま玄関を飛び出した。

 だが、まともに日の光も当たらない部屋に3カ月ほどもいて、いきなり5階からの外の景色が目にとび込んできたからたまらない。頭がクラクラして意識が飛んでしまった。その上、ちゃぶ台があるだけの部屋で、ずっと座っているか、横になるだけの毎日だった。

 すっかり萎えてしまっていた足が、気持ちとは裏腹に思い通りに動かなかった。

 父親が気付いて、追いかけてきた気配にあせった。「あっ、早く逃げなきゃ」と、階段に足をかけた時、いきなり父親のほうが先に転げ落ちた。階段下の踊り場で「いてて、いてて」とうめき、腰を押さえてうずくまった父親の体をまたぐようにして階段を下りようとした。

 だが、父親に足をつかまれてしまった。そうこうしているうちに、弟がだだだっと階段を駆け下りてきたし、母親がエレベーターで上がってきた。

 舞さんは3人に抱えられて連れ戻されたが、その時に「助けて! 監禁されてる、警察を呼んで!」と大声で叫んだ。弟が、舞さんの口の中に手を突っ込んできて、そのまま引きずって行った。

 それでも、叫び声を聞きつけた人が通報してくれたようだ。警察官が、思ったより早く玄関口にやってきた。

 父親が玄関に出て応対した。警察官に「娘が統一教会に入って、その話し合いのためにいるんです。だから何の問題もありません」などと言い訳しているのが聞こえたが、そのあと何も聞こえなくなった。警察官を玄関の中に入れないで、外で立ち話をしているようだった。

 玄関口が開いた時、警察官の「あまり騒ぎ立てないようにお願いしますよ」と言うのが聞こえ、そのまま立ち去ったのがわかった。

 その時、舞さんは玄関からは中が見えにくい部屋に入れられ、叫べないよう口を押さえられていた。その上、ばたばたしないように体も押さえられて身動きすらもできなかった。

 せっかく警察官が駆け付けたのに、助けを求める声も出せなかったのだ。警察官がその時入ってきて、舞さんの意思を確認してくれれば事態ははっきりしたのに、そうはしなかった。

 親の言うことをそのまま鵜呑みにして帰ってしまった警察官の態度が、舞さんに大きな衝撃を与えたのだった。

(「宗教の自由」取材班)