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距離の割に身近な人的交流 本紙創刊40周年新春特別座談会(上)


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日本・モンゴル文化と大相撲

500 日本文化の一翼をなす大相撲は11日に初場所初日を迎える。角界の頂点に今、白鵬を筆頭にモンゴル出身の3横綱が占める中で、久しく日本出身の横綱誕生が待望されている。そこで、本紙創刊40周年企画として駐日モンゴル国特命全権大使のソドブジャムツ・フレルバータル氏、横綱審議委員会委員長の内山斉氏、世界日報主筆(社長)の木下義昭が「日本・モンゴル文化と大相撲」をテーマに論じ合った。話題は日本人横綱は生まれるのか、モンゴル人力士の強さの源は何か、大相撲にみる日本文化と日・モンゴル文化交流、アジアの平和にまで及び、自由闊達(かったつ)な座談となった。

 木下 第69代横綱の白鵬が、九州場所で大鵬さんの優勝回数32回に並ぶ大偉業を達成し、その時の白鵬の言葉に大変感動しました。再現しますと「この国の魂と相撲の神様が認めてくれたから、この結果があると思う」と述べました。同じ立場に日本人横綱が立ったとしても、これだけの言葉が出るのかなと思うぐらい立派な言葉で感想を語っていました。

 そこで、最初の質問なのですが、今の白鵬は日本の文化をよく分かっている横綱だなと思うんです。相撲自体が古事記の中にも出ていることから分かるように古代からの非常に神秘的なものであり、神事の一言に尽きる。そういうところから始まってきて、後に江戸時代に大相撲という興行の形になっていきました。そして、いまの大相撲は、日本の国技であり、文化を代表するものです。大相撲について、まず内山委員長の方からひと言お願いします。

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「日本・モンゴル文化と大相撲」をテーマに新春特別座談会に出席した左からソドブジャムツ・フレルバータル駐日モンゴル国特命全権大使、内山斉・横綱審議委員会委員長、木下義昭・本紙主筆

 内山 言うまでもなく、相撲は伝統ある国技です。今の横綱は3人ともモンゴル出身で、最初の朝青龍を加えて4人が続いているが、そんなに違和感がない。これは稀有(けう)なことです。日本とモンゴルとは距離的にはだいぶ離れていますが、人と人との交流という点では妙に身近ですね。

 だから、先ほど座談に入る前に大使もちょっとおっしゃいましたけれども、志や夢を抱いて日本にやって来た少年が横綱に上り詰める。私は横綱審議委員会の委員長として鶴竜を横綱に推挙した訳ですけども、彼は16歳で日本に来て、10年間で横綱ですから。とにかく、これまでは10年間で一気呵成(かせい)に横綱になった。この後は、ゆっくりと長く綱を張る横綱になってくれと言ったんです。

 一方でですね、日本人力士の大関以下がいかにもだらしがない。今の下の方では逸ノ城がやっぱり凄い。だから、北の湖理事長に相撲協会の名前をモンゴル・日本相撲協会に変えたらどうかと尋ねたんです(笑)。理事長は目を丸くしていましたけどもね。

 木下 委員長として発言は大丈夫でしょうか?

 内山 それぐらいの刺激を与えなければダメだという意味で発言したんですよ。いずれにしても、モンゴルから来た朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜の4代と、平幕でも九州(場所)で最年長(40歳2カ月)三賞(敢闘賞)を獲った旭天鵬と、やっぱり見事なものです。日本人の若者が、学ばなきゃいけない点が多々ある。さっき木下さんがおっしゃった白鵬にしても、やはり挨拶からして、日本人でもなかなか出てこないような言葉で、見事なものですよ。

民族の栄えは文武両道の優しい心から育まれる

文科省はもっと体育で相撲を 内山
日本人横綱待望するモンゴル フレルバータル
苦労の割に報われない問題も 木下

人を助ける心を持つのが男 フレルバータル
育つ環境が昔と違ってきた 内山
武士道精神「後の先」の白鵬 木下

 木下 そうですね。その辺りのところを大使、モンゴル相撲は、年に一度の民族の祭典であるナーダムの大きなハイライトの一つですよね。やはり、これは一つの国を挙げての行事の中のハイライトですので、神様とか天とか、そういうことを意識した物凄(ものすご)く神秘的なものだと理解してよろしいのですか。

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ソドブジャムツ・フレルバータル  駐日モンゴル国特命全権大使。1951年、ウランバートル生まれ。国立師範大学卒。76年、旧ソ連のモスクワ国際関係大学卒。モンゴル外務省入省。97~2001年、駐日大使。05~08年、外務省アジア局長。08~11年、駐北朝鮮大使。12年から現職。

 フレルバータル モンゴルという国が、国家として初めて世界に登場したのが、今から2200年前です。当時の記録を見たらナーダム祭をやっていた。ナーダム祭というと、モンゴルで男の三つの競技のことで、それがモンゴル相撲、競馬、弓なんです。だから優に2000年の伝統があるスポーツ、というより国民的な競技なのです。

 ナーダム祭は年1回、全国で行われるのですが、やっぱり皆が1年間、楽しみに待ちに待って見てるのがモンゴル相撲です。国が開催するウランバートルでのモンゴル相撲には、512人の力士が参加し、2日間かけて勝負するんです。それと同時に、その日に全国の各県、各都市でもモンゴル相撲をやるんです。これがモンゴルで大変人気で、モンゴル相撲の横綱というと全国で皆に尊敬される、愛される人物になるほど人気の競技なんです。そういうことで、モンゴルの子供たちは皆、相撲取りになりたいと小さい時から歩けるようになってきたら、みんな相撲を取って育っていく。

 木下 歩けるようになった頃から。だから足腰が強いんですね。

 フレルバータル そうです。それぐらい人気があるんです。

 木下 優勝するまでにナーダムの時は、9回もトーナメントで勝たないと優勝できないと聞きました。

 フレルバータル ええ、日本の大相撲と違って2日間のトーナメント式で行われ、負けると抜ける。勝った相撲取りだけが9回戦い、一番最後まで残った2人が勝負する。

 木下 ということは、トーナメントでも柔道みたいに敗者復活戦はないんですね?

 フレルバータル ありません。

 内山 負けたらそれでお終(しま)いですか。すると、勝ち続けるのは大変な強さと集中力ですね。憧れの対象、ヒーローですから、スポーツというか運動の全ての代表的な競技が相撲ということですか…。

 フレルバータル 国民的競技と言っている意味は、モンゴル相撲そのものは大相撲みたいにプロのスポーツになっていないんです。

 木下 プロということじゃないんですか。

 フレルバータル そうです。モンゴル相撲だけをやっている人はいないです。

 木下 では、他に職業を持ちながら。

 フレルバータル 持ちながらですが趣味、ホビーでもない。あくまで国民的な競技と言う意味です。しかし最近は、少しずつプロになりつつある点があります。将来的には、プロスポーツとアマチュアの伝統的なナーダム祭との二つに分かれていくのではないかと思います。

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内山斉(うちやまひとし)  横綱審議委員会委員長。昭和10年(1935年)北海道札幌市生まれ。日本大学文学部卒業。昭和32年、読売新聞社入社。編集総務、制作局長、常務社長室長・広報担当などを経て2004年読売新聞グループ本社代表取締役社長、11年から同顧問。09~11年日本新聞協会会長、05年から横綱審議委員、13年から第13代同委員長。

 内山 なるほど。基本的に日本とはだいぶ環境が違いますねぇ。

 木下 しかも遊牧民族ですから、先ほど言った三つの事を男はしなきゃいけない。もう一つ私が感動したのは、詩、ポエムですね。これを吟ずる事ができなきゃいけないんだと。いわゆる遊牧民の国家ですから、強さだけじゃなく、民族の良さとか、自然の良さとか、そういうものを活字で表すとたくさんの本を持ち歩かなきゃいけません。なので口で伝える。口で伝えるところから、大地を見ながら詩を吟ずる。こういうこともできないと一流の人じゃないと聞いたんですが…。

 フレルバータル 伝統的には男はナーダム祭に参加して、3回優勝しないといけない。どこか皆で楽しんでいる所に行ったら、そこで歌を1回でも歌わないといけない。競馬をやっている時には、良い馬を持って参加しないといけない。そうしないと男ではない、という伝統があるんです。最近は、少し別の形になっていますが、歌を作って歌う、詩を作って詠む、楽しむ、そういう伝統は維持、保全されています。

 木下 となると、日本の名横綱といわれる方々も、模範としたのは例えば武士道ですね。武士道の精神というのは、ただ剣が強いだけじゃなくて、教養がなきゃいけない、礼節がなきゃいけない。となると日本の武士道とよく似ているような。

 内山 文武両道なんだよね。モンゴルの人たちはやっぱりポエムっていうか、詩的なものがありますね。詩的な心が、優しい心があって民族が栄えているんじゃないかなと、そんな風に思いますけど。

 フレルバータル 文武両道は、そうですね、精神的な文化があり、武士道と似ているとみてよいと思います。ただ力でじゃなくて、頭が悪くて力を持っていても何でもない。力持ちの人は、頭も強くするために勉強すべきだという教えがあるんです。

 内山 なるほど。

 フレルバータル 先ほど木下さんが、白鵬の優勝インタビューについて話していたが、白鵬が私と会って話したときに「相撲は、日本の伝統です。文化です。良い相撲を取るためには、日本の伝統と文化を勉強しないといけない。日本人の心を感じない、文化が分からない、ただの力では相撲を取れない。だから、私は日本の文化に大変興味を持って、いろんな先生に教えて貰(もら)って勉強している。日本の文化が大好きになった。尊敬しています」という話をしていました。

 木下 いまの文化の話に繋(つな)がるものがあると思うのですが、白鵬が日本に来る時、お母さんから日本の象徴だから、これを持っていきなさいと昭和天皇の写真を渡されたと知りまして、これは日本人の方が相当反省しないと横綱になれませんね。なれても立派な横綱にまでは行けないんじゃないかと。

 日本では、安倍首相も非常に心配していることとして、少子高齢化社会が問題になっている。日本人とモンゴル人は「蒙古斑」を持つ点で類似していますが、現代の「男」では大きな違いがあります。男が魅力的な男でないと、女性は結婚したがらない。モンゴルの方のような男にならないと日本は滅亡しますから。

 内山 だから、モンゴルから来た横綱たちにもっと力を付けて貰う。さっきも言ったが逸ノ城だって、すい星のようにあっという間に有望な横綱候補として出てきた。力がある。うかうかしていると、日本人の大関以下をとび越えていく可能性を感じる。ですから私は横綱審議委員会で、毎回のようにしつこく大関以下の日本人力士に大奮起を求めて叱咤(しった)するのです。いつまでもモンゴルから来た3人の横綱に君臨されていて、何だよと。3人の横綱をぶっ倒すっていう気迫と実力を持てって言うんです。けれど、日本人は心の中に闘志は秘めているんでしょうけど、表に出る反応が少ないんです。

 フレルバータル いま、おっしゃったことは、モンゴルでの相撲ファンの考えとよく似ています。朝青龍が大関、横綱になった頃のモンゴルの大相撲に対する関心は凄かった。モンゴルの各チャンネルは生中継をして、ちょうど相撲をやっている時間には渋滞がなくなり、国会が休憩したというぐらいの人気で、人口の半分ぐらいはテレビの前にかじりついた時期があった。本当に皆が相撲を好きになって、女性の方々も関取たちの名前を覚えたり、決まり手を日本語で覚えたりと、よく話題になるそういう時期があった。

文科省はもっと体育で相撲を 内山
日本人横綱待望するモンゴル フレルバータル
苦労の割に報われない問題も 木下

人を助ける心を持つのが男 フレルバータル
育つ環境が昔と違ってきた 内山
武士道精神「後の先」の白鵬 木下

 フレルバータル しかし、それもいまはちょっと、ちょっとですね。いまの相撲は面白くはないと。やっぱり相撲は日本の伝統文化ですから、強い日本人の関取が出てきて横綱になっていくのが当然。そうじゃないと、モンゴル人力士だけでは面白くない。いまは生中継やっているテレビも一つだけになって、見ている人の数も少なくなりました。

 だから、相撲ファンの人たちは、早く日本人の横綱が誕生してほしいと、稀勢の里や琴奨菊に皆、拍手して応援しています。モンゴルの全国民的に愛されて、応援されたのが引退した魁皇(元大関、現・浅香山部屋師匠)なんです。魁皇は、5回優勝しても横綱になっていない。それを大変、モンゴルの相撲ファンが残念に思っている。早く、日本の横綱が誕生してほしいと願っています。

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「日本・モンゴル文化と大相撲」をテーマに論じ合う左からソドブジャムツ・フレルバータル駐日モンゴル国特命全権大使、内山斉・横綱審議委員会委員長、木下義昭・本紙主筆

 内山 魁皇は確かに男らしい大関でしたね。力士らしい力士で、そこがやはりモンゴルの人々から見たら大変魅力的だったのでしょう。

 フレルバータル モンゴルの人々の中の男という言葉は、日本で言う武士という言葉によく意味が当たっていると思うのです。男と言うのはまず体格が良くて、ハンサムで、力強く、頭がよい。そして何より人を愛する、助ける心を持つ、そういう人だと言われていて、小さい子供を育てる時には、男になれ、男らしく生きろと言っているんです。だから、魁皇は、そういうモンゴルの皆が尊敬している男のように見えていた。それで愛されて、強い力で横綱になってほしいと応援していたのです。

 内山 昔の日本でも、私たちの子供の頃は、男らしくって言葉がよく言われた。けれど、いまは“草食男子”と言われる言葉が出てくる世相が示すように、大変に弱くなってしまった。女性も結婚したがらず、どうしようもない。

 フレルバータル いや、私はそうは思いません。日本と付き合って40年近く経ちますが、日本の青年たちは年ごとに体が大きくなり、強い青年たちがいま、たくさん出て来ています。そういう人たちが野球やサッカーなどのスポーツにはよく行くが、何で誰も相撲に目を向けないのか不思議で仕方がない。それは委員長、どういうことですか?

 内山 それはですね。一つは、いまの若者は裸になってマワシ1本で土俵に立ち、転がされて泥まみれになる、これを嫌がるんです。それからもう一つは、お相撲さんになるにはもともと太っていないとなれないと思っている。日本でイケメンと呼ばれる男性に太っている人はあまりいませんから、女性にもてなくなると思うのでしょうね。でも、白鵬だって来日したときは62㌔しかなかったわけです。

 相撲部屋に入ってから、体を作っていけばいいんですけどね、そうは思われていない。それから、相撲部屋に入ってからは親からの小遣いなんかで菓子類とかを買って食べて、お腹(なか)を膨らまさないでほしいですね。太らないんだそうです。朝稽古をやってチャンコを食べて、昼寝して、また稽古と繰り返して体重を増やす。こういうお相撲さんの体の作り方の基本を怠ってもダメなんです。

 木下 太らないんですか?

 内山 そうなんです。太っていても太り方が違うんです。いわゆる太鼓腹のようなお相撲さんタイプの体にならない。だから、買い食いしないで、チャンコを食べて寝るようにと言っているわけです。

 北の湖理事長は私と同じ北海道出身でね、北海道から関取が出ないねと言ったら「内山さん、それは無理だよ」と言うんです。何故(なぜ)かと聞くと「僕が小学校の時は学校までの6㌔、雨の日でも雪の日でも走って通ってましたよ。それが今は車で送迎だよ。これじゃ足腰が強くならない」と。モンゴルで馬に乗らないで、ジープで草原を走っているようなものでしょう。

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世界日報主筆(社長)木下義昭

 フレルバータル 実はモンゴルでも最近、そういうことになっているんです。馬の世話、家畜の世話をやっている人も、馬じゃなくてオートバイに乗っているそうで、似たような話ですね。

 内山 確かに、スポーツをやっている青年は鍛えられているけども、全部じゃなくて、全体的にはそうじゃない。家までの行き来は別としても、全体に軟弱になってしまっている。しかし、日本の若者が相撲に向いていないわけではないんです。でも、育っている環境が昔とは違っているので、日本人はダメだと言うだけではなくて、頑張れる環境をつくってあげることも必要だと思うんです。

 例えば、柔道や剣道も素晴らしいけれど、文科省はもっと体育で相撲を推奨して、年1回学校でトーナメントをするとか。優勝すれば、女の子にもモテるだろうし、太っているだけでは勝てないことも分かる。もちろん、学校だから体操着のままでね。

 それと、やっぱりイメージアップも考えないといけない。歌舞伎や文楽の世界なんかは、国立の養成所があるでしょう。相撲界も国がしっかり支援をして、中学を卒業したら力士になるためだけの生活を送る。そこから各部屋に入っていってもいいんじゃないかと。

 木下 それも、他のスポーツに比べて、苦労の割に報われないというのがあるかもしれませんね。例えば、優勝賞金を見ても、他のゴルフとか、苦労もあるんでしょうけど、個人で好きなのやった方が高額な賞金を取れたりする。もっと優勝賞金を大きくするとか、ダイナミックにされた方がよい気がします。

 内山 ゴルフとかだと1億円ぐらい貰えますからね。相撲は優勝しても、とてもそんなにはいかない。

 フレルバータル それもあるんですね。厳しい稽古をしても収入に見合わないと。

 木下 そうですね。それで白鵬の素晴らしいところをもう少しお話ししたいのですが、武士道の精神を白鵬が一番よく知っているのじゃないかと思うような土俵での取組の仕方です。いわゆる、こう受けて立ちますよね。武士道でいう「後の先」というか、まず受ける、待ったはほとんどしない。例えば大鵬もそうだったと思うし、双葉山も、あるいは常陸山とか名横綱と言われた人は、引っかけたり、逃げたりしないで、まずドンと受ける。こういう何でも来いっていうところが、いまの白鵬の強さというか、あの武士道にも似た精神の体現っていうものは凄いと思うのです。そういうものはモンゴルでは、あるのでしょうか、普段から何でも受けて立つというか?

 フレルバータル 遊牧民の世界、その中での男っていうのは、昔から何でも受けて立つという教育で育てないと非常に厳しかった点が確かにあります。最近は近代化の影響で、モンゴルでも少し緩くなっている点はありますが、やっぱり先ほど言った男になるためには、そういう性格に育てていく必要がある訳です。