児童虐待、他の家の出来事と思うな


 家庭内で起きる虐待によって幼き命が奪われる事件が、後を絶たない。全国の警察が昨年1年間に児童相談所(児相)に通告した子供の数が初めて6万人を超え、そのうち58人が亡くなった。

警察からの通告6万人超

 「社会的関心の高まりによって、地域からの通報が増えたことが影響しているのではないか」(警察庁)との分析があるが、果たしてそれだけだろうか。摘発事件や一時保護も過去最悪となったことを見ると、虐待が悪化してからの通報が多いことがうかがえる。

 虐待による悲劇を防ぐためには早期に発見し、被害者をケアすることが肝要だ。それには児相、自治体、学校、警察の関係者が自分の子供を守るぐらいの強い意識を持って連携し対応に当たることが必要である。また、地域住民も「他人の家」のことと考えないでほしい。通報が遅れれば、それだけ被害は深刻化するのである。子供のことを考えると、家庭を孤立させない努力も求められる。

 全国の警察が2017年に、虐待の疑いがあるとして児相に通告した子供は、前年比約20%増の6万5431人。13年連続の増加で、過去最悪を更新した。このうち、生命の危険があるとして警察が一時保護したのは3838人に達した。摘発事件の被害者は過去最悪だった昨年から60人増え1168人。死亡者は前年より9人減ったが、憂慮すべき事態である。

 東京都目黒区のアパートで今月、5歳の女児が死亡し、傷害容疑で父親(33)が逮捕された。香川県で暮らしていた昨年2月と5月にも、父親は女児への傷害容疑で書類送検されたが、いずれも不起訴処分になっていた。

 自治体、児相などが連携を密にしていれば、最悪の事態は防げたのではないかと思うと、残念でならない。関係機関は対応に不備はなかったのかを徹底的に検証し、悲劇を繰り返さないための教訓にしてほしい。

 精神的に未熟な親が多くなったことも虐待の増加と関連している。東京都足立区の自称大工(20)が傷害容疑で逮捕された。先月22日、生後2カ月の女児の額を指ではじくなどしてけがをさせたのだ。

 3日後に妻(27)が「子供の顔色が悪い」と119番。女児は心肺停止状態で病院に運ばれ、死亡が確認された。その顔には複数のあざがあったことから、日常的に虐待が繰り返されていた疑いが持たれている。

 容疑者は「泣き声がうるさくて眠れなかった」「デコピンで何回かたたいた」と暴行を認めている。親になるにしてはあまりにも幼い精神性にあぜんとしてしまう。自分の子供に対して感情をコントロールできない親が多くなっていることも虐待が増えている要因の一つであるとすれば、迂遠のようだが、小さな命を救うために若者への教育を問い直すことは不可欠である。

育児への責任教育せよ

 結婚とは、自分たちの幸せだけを考えればいいというものではない。生まれてくるであろう子供を立派に育てるという責任意識を持たせるための教育を蔑ろにしてきたことを、われわれは重く受け止めるべきだ。