意外なフランス人権宣言


 「人民は常に憲法を再検討し、改正し、変更する権利を有する。ひとつの世代が、自らの法に将来の世代を従わせることはできない」

 これはどこかの改憲派の主張を引っ張ってきたものではない。かの有名なフランス人権宣言(人間および市民の権利の宣言)の一条文だ。とは言っても、私たちが社会科や世界史の中で学んだ1789年の人権宣言ではなく、1793年6月の人権宣言の28条だ。

 「えっ、フランス人権宣言っていくつもあるの」。筆者のように理系出身で、あまり深く世界史を学んだことのない人間にとっては、これは驚きだ。法律の専門家集団である奈良弁護士会憲法委員会の憲法解説にも「『フランス人権宣言』などは、200年以上一度も改正されることなく、…」と書かれているので、意外と多くの人が知らないことなのかもしれない。

 ということで、ちょっと調べてみると、89年の人権宣言は行政権と議会への拒否権を持つ国王を認める91年憲法の前文となったが、その後、国王処刑などの変動を経て時の実権を掌握した勢力によって93年4月、93年6月、95年の3度書き換えられている。人権宣言を引用する場合には、いつの宣言かを明記しなければならないようだ。

 そのような歴史があっても、出発点となった89年人権宣言の価値は不変だ。自由と権利の平等、国民主権、適法手続き、罪刑法定主義、無罪の推定、意見表明・表現の自由、権力の分立などほとんど現在の日本社会でも基本原則として通用している。ただ、「人および市民の権利の保障は公の武力を必要とする」(12条)というあまり目にしない条文もあった。13条では租税の不可欠性は「公の武力の維持および行政の支出のため」と記されている。国家に公の武力、(軍と警察)がなくては人・市民の権利の保障はおぼつかないというのだ。何事も自分の目で確かめることは重要だ。(武)