男女の捉える世界の違い


 本当に男と女はそんなに違うのだろうか。男に生まれて60年近く過ごし、35年は妻と一緒に暮らしてきた。息子、娘もいる。それでも、よく分からない。

 本紙でも紹介された『男の子の脳、女の子の脳』(草思社)によると、男と女はまず、耳の聞こえ方が違う。新生児の時から女児は男児よりはるかに聴覚が発達していて、音がよく聞こえる。この差は成長するにつれてさらに大きくなり、11歳の女の子は男の子よりおよそ10倍も小さな音に気を散らされやすいのだとか。それで教師が同じ話をしても最前列にいる女児には怒鳴っているように聞こえ、最後列にいる男児には聞こえないということが起こるのだそうだ。

 見え方も違う。女性の網膜は質感と色の情報を集める小さくて薄い神経節細胞(P細胞)が豊富な半面、男性の網膜は動きと方向の情報を集める大きくて厚い神経質細胞(M細胞)が優勢であるため、まず男性の網膜は女性の網膜より厚い。そして男女の見える世界が生まれつき違っていて、女は人の顔や色彩の方に興味を持ち、男は動くものの方に興味を持つようになっているというのだ。

 これらは既に数十年も前に科学的に究明されている。もちろん自分が男なら、男が見聞きできる世界しか知らないので、隣にいる女性が自分とは異なる見聞きの仕方をしているなんて想像もつかない。だから書籍を通してこんな知識を得ても、正直なところ、ピンとこない。

 しかし、教育者にとって、男児と女児の見え方、聞こえ方、(ここでは紹介していないが)考え方や感じ方が生まれつき違うのかどうか、その真偽を確認することは重要なはずだ。もしそれが事実なら、男女の特性を踏まえて教えることができる。少なくとも黒や灰色の飛行機や車しか描かない男児を絵の才能がないと断定するようなことはなくなるだろう。子供の最初の教育者である親にとっても、ひとごとではないはずだ。(武)