相続で家族を壊さない為に


 今年から相続税の基礎控除額が縮小され、相続税を負担する層が広がった。他人ごとではない。遺産分割で家を手放さざるを得なくなったり、相続で兄弟間の関係に亀裂が入り、絶縁状態に発展する、という話はあちこちで聞く。

 先日、ある研究会で日本の相続税法の成り立ちについて聞く機会があった。「戦後のシャウプ勧告で作り直された相続税法は個人を基本に作り上げられ、家族主義の日本の伝統文化とは相いれないところがあり、今日相続を巡って家族がバラバラになる、残念な事態を招いている」と示唆深い内容だった。相続税制の在り方が家族形成に想像以上の影響を及ぼしていることに、非常に驚かされた。

 日本の相続税制度では、夫が亡くなった場合、妻が2分の1、残りを子で均等分割する決まりになっている。もし子供がいなかったり、未成年の場合は、最大で妻が4分の3を相続できる仕組みになっている。「日本ほど相続税制上、妻の権利が守られている国はない」という話は、目から鱗(うろこ)だった。

 実際に、伝統ある老舗問屋が当主の突然の死によって、創業家一族の意に反して、当主の妻によって自宅や老舗が処分されるという悲劇が起きているという。これほど悲惨な破壊を招いてしまうのは、税制上の問題も大きいだろうが、戦後の教育の在り方にも問題があったように思う。家族の秩序や伝統を守ることより、個人の自由、放縦に流れすぎた面がある。

 筆者の家は娘3人が長男家に嫁いでいるため、跡取りがいない。遺産分割がきっかけで、親族間に亀裂が入るような事にしたくない。そうしないためには、生前から親族間でよく話し合っておく。場合によっては遺言を残しておくことも重要だ。お盆やお彼岸のときは、じっくり話ができるいい機会である。御先祖様が降りてきて、意外に話が導かれるものだ。(光)