主権者教育の課題


 10日投開票の参院選で、全国的に18歳選挙権の時代が始まった。これに備えて総務省と文部科学省は昨年、高校生向けの副教材「私たちが拓く日本の未来」を作成・配布し、全国の高校で「主権者教育」という名の政治的教養の教育を行うようにした。

 政治に馴染(なじ)んでいくという意味では選挙制度や投票の仕方などを学ぶことも必要だろうが、それだけでは不十分だ。実際に投票する候補を決めるには演説を聞いたりチラシを読むだけでは難しい。どの主張にも一理があるだけでなく、羊頭狗肉や巧言令色の類が幅を利かせているからだ。

 例えば、東京で昨年やっと時給907円(地方ではまだ同600円台のところもある)になった最低賃金を同1500円に引き上げ、おまけに非正規雇用を正規化するという某野党の公約がある。多くの有権者は本当にそうなれば万々歳だ。しかし、その費用を負担する中小企業や零細企業はどうするのか。おまけに国公立大学の授業料を10年後に半額にし、70万人規模で返済する必要のない月額3万円の給付奨学金を創設。さらに消費税率10%への引き上げを断念するとしている。大学生やその親もそうなれば大助かりだ。しかしその財源をどうするのか。金持ちや大企業への課税を強化して財源をつくるというが、今のグローバルな時代にそんなことになれば、大企業や金持ちは日本から逃げ出さないだろうか。

 公約の中のほんの一部だけをみても、実際の社会の中ではこっちを立てればあっちが立たずということばかりだ。その虚実を見極める平衡感覚のある眼力を養うことが主権者として最も重要であるはずだが、従来通りの知識の一方的な伝授とペーパーテストで習熟度を測るやり方では難しかろう。自分の言葉で考え、質問し、説明する力を養う工夫が必要だ。主権者教育がそんな教育を強化する契機になれば幸いだ。(武)