「あふむけば口いつぱいにはる日かな」(成美)…


 「あふむけば口いつぱいにはる日かな」(成美)。明日から4月。3月が卒業式に見られるように別れを告げる季節だとすれば、4月は新しい人間関係を築く時期。3月・4月は「別れと出会い」の季節である。

 特に卒業式のシーズンは、桜の花が咲いて散るので感傷的になりやすい。ちょうどきょうあたりは東京・上野恩賜公園の桜も盛りになる。

 「花の雲鐘は上野か浅草歟(か)」(芭蕉)。満開の桜並木を遠方から見ると、花が雲のように霞(かす)んで見える。いかにも春駘蕩(たいとう)の感じが伝わってくる。この芭蕉の名句は、浅草寺に句碑がある。

 現在では、花見は花の美しさを愛(め)でる宴会というイメージが強い。ところが、昔は神道儀式の後に行われる共同飲食の直会(なおらい)のようなものだったらしい。収穫を神に感謝する秋祭りに対して、花見は秋の豊穣(ほうじょう)を祈願する予祝行事のような性質を持つ。桜は田植えの時期を知らせる花という見方もある。

 いずれにしても、花見の中には古来の伝統文化が息づいていることは間違いないだろう。花見は、ただ浮かれて遊ぶだけのものではない。もちろん、江戸時代に武士道と結び付いて花見への意識が変化したことも考えられる。

 毎年、花見は繰り返されるが、決してマンネリを感じることはないのも、考えてみれば不思議である。花は変わらなくても、そこに参加する人々の顔触れは少しずつ変わってくる。花見は一期一会の「出会いと別れ」そのものであると言っていい。