1994年の先進国首脳会議(サミット)の取材…


 1994年の先進国首脳会議(サミット)の取材でイタリアのナポリに滞在した。サミットについては村山富市首相がお腹(なか)を壊して何かの会合を欠席したことくらいしか思い出せない。一方でナポリ郊外の一般家庭に2日ほど泊めてもらった記憶は、鮮烈に残っている。

 そこは日本人の知人の奥さんの実家なのだが、夕食に出された料理の美味(おい)しかったこと。お母さんが作ってくれた文字通りマンマの味。

 近くに住む家族や親戚が気軽に出入りしているのも印象的だった。映画「男はつらいよ」シリーズで「寅さん帰って来たんだって?」とタコ社長らが「とらや」に気軽にやって来る情景を思い出した。イタリア人の家族の絆には独特の強さがある。

 いま評判のジャンニ・アメリオ監督「ナポリの隣人」という映画も、家族や隣人との関係をテーマにしている。弁護士をしていた年老いた父親には、シングルマザーの娘がいるが、事情があって口も利かない。そこへ子供連れの夫婦が隣に引っ越してきて、心が通じ合う親しい仲になる。

 実の子より他人の方が親身になってくれる。小津安二郎監督の「東京物語」に通じるところがある。イタリアの家族関係も揺らいで簡単ではなくなっていることが分かる。

 ただ、映画を見る楽しみが減るといけないので詳述は控えるが、いろいろあっても最後に帰って行くのは家族というのがこの作品の結論である。イタリアを舞台に人類共通のテーマを描いている。