東京のJR三鷹駅南口で降りて、玉川上水…


 東京のJR三鷹駅南口で降りて、玉川上水沿いの「風の散歩道」から本町通りに入り、南に少し歩くと「太宰治文学サロン」がある。市民が協力して運営している施設で、小さな文学館だ。

 この街には太宰ゆかりの場所がたくさんある。このサロンもそうで、太宰一家が買い物に来ていたという伊勢元酒店の跡地だ。ゆかりの場所が「太宰治マップ」に記載されていてファンにはありがたい。

 現在、展示されているのは「太宰治と今官一~郷里から三鷹へ~」。今は太宰と同郷で、青森県弘前市の生まれ。上京して昭和8年に同人誌「海豹」を創刊したが、今は反対する同人を説得して無名の太宰を参加させた。

 太宰の「魚服記」「思ひ出」はこうして世に出て、太宰が文壇へ出ることへの契機となっていく。展示資料には今宛ての太宰のはがきや、今が太宰について書いた『わが友 太宰治』などの作品がある。

 2人の友情がどれほど深かったかを示すのが、昭和19年4月の出来事だ。今が召集を受けると、太宰は「直筆原稿を置いていけ」と言い、今は600枚の原稿を託した。重さ7㌔もあった。戦時中、太宰はそれを守り抜く。

 三鷹から甲府、青森へと運んで、五所川原の親戚宅に保管。今は召集解除後の昭和21年夏、引き取りに行った。太宰の入水自殺後、遺体が発見された6月19日を「桜桃忌」と命名したのも今だ。太宰の「走れメロス」という作品は、今との友情を連想させる。