昨年暮れに一時入院していた同僚の退院祝い…


 昨年暮れに一時入院していた同僚の退院祝いを兼ねて、銀座の老舗洋食店で夕食を共にした。作家の池波正太郎なども使っていたが、決して高い店ではない。いわゆる日本風洋食を供する店で建物も古く、昭和の雰囲気が濃厚に漂っている。

 話好きの同僚が感じのいいウエートレスに話し掛けると、都内の医科大学の学生だという。大学の名前を聞くと、同僚が入院していた病院が付属する大学だった。世間は案外狭い。

 見回すと仕事帰りのサラリーマン風の客に交じり、外国人旅行者風の姿もちらほら見える。「最近は中国や韓国、台湾のお客さんも多いです」とウエートレス氏。

 銀座は今、外国人観光客であふれている。欧米からの旅行者も多いが、彼らが日本に来てわざわざ日本風の洋食を食べることは希(まれ)だろう。一方、中国人や韓国人の口に、この料理は案外合うのではないか。情報収集も容易な今では、銀座で比較的安く食べられる洋食レストランの情報も簡単に得られる。

 坪内祐三著『新・旧銀座八丁 東と西』(講談社)を読むと、銀座も必ずしも高い店ばかりではないことが分かる。しかし、そんな古き良き銀座の雰囲気を残した店がどんどん消えていっているという。

 坪内氏の本でもこの老舗洋食店は取り上げられている。銀座が大きく変わる中で、この店が生き延びていくのは簡単ではないとも思う。そんな中で、中韓からの旅行者が増えていることは、この店にとって心強い材料だろう。