世界日報 Web版

《亡くなった哲学者、梅原猛さんの『隠された…


 《亡くなった哲学者、梅原猛さんの『隠された十字架』は、法隆寺を聖徳太子の怨霊を鎮めるための寺と説いて衝撃的だった。文章も熱を帯び、読みながらぐいぐいと引き込まれたのを覚えている。

 その中で梅原さんは、法隆寺の中門の柱が正面から見ると5本並んでいるのは、真ん中の柱が閂(かんぬき)の役割を果たしており、聖徳太子の怨霊を封じ込める意味があると書いた。後に美術史家の町田甲一氏が『大和古寺巡歴』の中で反論していたのを読んだが、説得力があった。

 それで気流子の梅原熱はやや冷めたが、それでも梅原さんの書くものは魅力があった。哲学者による文化論という面では和辻哲郎の仕事を思わせるものがあるが、「梅原日本学」は和辻を超えるものを遺(のこ)したのではないか。

 2013年の『人類哲学』では、縄文文明を基層に置いた独特の日本文化論を展開し、その人類史的な意義を明らかにしている。

 「草木国土悉皆成仏」に象徴される天台本覚思想に日本文化の本質を観(み)、その元に1万年続いた縄文文化があると論じた。環境問題で行き詰まる現代文明を救う鍵をそこに観ている。

 多くの動詞が共通することから日本語のルーツはアイヌ語という説も魅力的だ。言語学者たちはこの説を認めないが、私が死んだ後認められるだろう、柳田國男や折口信夫の説も亡くなった後に認められたから、と梅原さんは自信満々だった。梅原日本学の真価が明らかになるのは、これからなのかもしれない。