「蒲公英は大地の花よ返り咲き」(永倉しな)…


 「蒲公英は大地の花よ返り咲き」(永倉しな)。「蒲公英」とはタンポポのこと。タンポポは春の花だが、この句は歳時記の11月の例句となっている。実はこの句の季語はタンポポではなく「返り咲き」である。

 稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』によれば「返り咲き」は「帰り花」と同じ意味の季語で「桜、梨、山吹、躑躅、蒲公英などが、初冬の小春日和のころに時ならぬ花を開くのをいう。単に帰り花といえば桜のことで、他の花はその名を補いなどして感じを出す。人の忘れたころに咲くので忘(わす)れ咲(ざき)、忘れ花ともいい、時ならぬときに咲くので狂(くる)ひ花(ばな)、狂(くる)ひ咲(ざき)などともいう」。

 確かに、時期外れの花が咲いているのを見掛けることがある。夏や秋などに道端や庭の垣根の下で、タンポポの花が地面にへばりつくように小さく咲いているのを見た記憶がある。

 環境や地形、その他の条件によっては、こうした事例が珍しくなかったのだろう。江戸時代の芭蕉や蕪村、一茶らも「帰り花」の句を詠んでいる。

 動植物の季節の変化への反応は決まり切ったものとは言えないようだ。渡り鳥が南の方へ行かずに日本で越冬する例があることはよく知られている。また人工的な温室栽培では、季節とは関係なく作物が作られている。

 ますます寒さが厳しくなり、暖房器具が恋しくなる時。それでも時々、小春日和の暖かい日がある。体調を管理するのは大変だが、それが自然の不思議さ、玄妙さというものである。