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理想主義の影響が大きかった時代に、現実主義…


 理想主義の影響が大きかった時代に、現実主義に立脚しながら国際政治学の領域を切り開いた元京都大教授、高坂正堯(まさたか)の評伝がこのほど刊行された。服部龍二著『高坂正堯』(中公新書)がそれだ。

 高坂は1996年、62歳の若さで亡くなったが、残した業績は大きい。彼は闘争的な人間ではなかったから、マルクス主義に基づいた理想主義そのものを正面から攻撃するのではなく、歴史に立脚した事実を積み上げるという方法を貫いた。

 中でも、外交における「待つ」ことの重要性に触れた部分は面白い。19世紀初頭のウィーン会議の時代、外交は時間がかかるのが常だった。合意が得られるまで、一見ムダな時間と費用を費やしながら「待つ」。

 「歴史は繰り返す」としばしば言われるが、それは正しくないとも高坂は指摘する。似ている状況はあるが、重要な点で違っていることが多いと言う。「歴史を研究したからといって現在が分かるということはない」というのが彼の実感だった。

 晩年、テレビの報道番組にレギュラーコメンテーターとして出演したことがある。野党政治家の無責任な発言を、やんわりとではあるが、厳しく批判したのを覚えている。

 1970年に酒の席で当時の宮沢喜一通産相から「1700年以降の日本人で好きな人物を3人挙げてほしい」と言われた高坂が「大久保利通・勝海舟・吉田茂」と答えた記録が残っている。現実主義者らしい回答だ。